豊田市民の誓いのうた

「豊田市民の誓いのうた」（とよたしみんのちかいのうた）は、愛知県豊田市において、2018年（平成30年）に市の憲章歌として制定された楽曲である。この歌は、1978年（昭和53年）3月に採択された豊田市の市民憲章「豊田市民の誓い」の条文を歌詞としており、作曲は豊田市を拠点に活動する音楽家、若渚氏が手掛けた。

誕生までの経緯

前身の都市における市民歌謡

現在の豊田市の前身である西加茂郡挙母町（ころもちょう）では、既に昭和初期に町民に向けた歌が制作されていた。詩人・野口雨情が作詞、作曲家・藤井清水が作曲を手掛けた町民音頭「挙母音頭」や新民謡「挙母小唄」などがその例である。挙母町が1951年（昭和26年）に挙母市として市制を施行した後も、市民歌謡の取り組みは続けられた。

1958年（昭和33年）には、著名な詩人である西條八十を審査委員に迎えて挙母市歌制定委員会が設けられた。この委員会により、かつて存在した楽曲と同名ながら異なる旋律を持つ「挙母音頭」および「挙母小唄」が選定された。しかし、翌1959年（昭和34年）に市内に本社を置くトヨタ自動車にちなんで市名が「豊田市」に変更されたことに伴い、選定されたこれらの2曲は事実上、市民歌として定着することなく日の目を見ることがなくなった。

豊田市としての歩みと市民歌謡

豊田市への改称を経て、改めて市民歌謡の必要性が認識された。1970年（昭和45年）9月には、作曲家・服部龍太郎を審査委員に迎え、市名変更前に制作された2曲に代わる市民音頭「豊田音頭」と新民謡「豊田小唄」が選定された。これらの楽曲は歌手・三沢あけみの歌唱によりレコード化もされたが、これは特定の行事などで歌われる市民歌謡であり、豊田市全体のシンボルとなる正式な市歌としては位置づけられなかった。

市歌の未制定

その後も豊田市では、継続的に使用される恒常的な市歌が制定されないまま時が経過した。政令指定都市や中核市といった大規模な自治体においては市歌を定めている例が多い中で、豊田市は長らく市歌を持たない状況にあった。同様に市歌を持たない中核市としては、2005年（平成17年）の新設合併に伴い1952年（昭和27年）制定の「富山市民の歌」が効力を失った富山市など、全国でも稀なケースであった。

市民憲章「豊田市民の誓い」

「豊田市民の誓いのうた」の歌詞の基となっているのは、豊田市の市民憲章「豊田市民の誓い」である。この憲章は、1978年（昭和53年）3月に採択された。制定の背景には、周辺町村との合併による市域の拡大に加え、自動車産業の発展に伴う市内への転入者の増加があった。多様な人々が共存する中で、新たな地域社会を築く意識が高まり、市民一体の指針となる憲章が必要とされたのである。

「市民の誓い」が採択された後は、市内の行事や市民が集まる会合などでの唱和が推奨され、市民の間で広く認識されるようになった。1999年（平成11年）には、市民憲章の推進に関わる第34回全国大会が豊田市で開催されるなど、その重要性が示されてきた。

「誓いのうた」の制作と発表

市民憲章「豊田市民の誓い」が採択されてから40周年にあたる2018年（平成30年）を記念し、同年3月4日には記念シンポジウムが開催された。このシンポジウムの席上で、「豊田市民の誓いのうた」が初めて発表された。この楽曲は、市民憲章の条文に旋律を付ける形で制作され、作曲と歌唱は、豊田市を拠点に音楽活動を行い、視覚に障害を持ちながらも「全盲の歌姫」として知られるシンガーソングライターの若渚氏が担当した。

現在の位置づけ

「豊田市民の誓いのうた」は、正式な市歌ではないものの、市民憲章を広く普及するための歌として活用されている。市の公式ウェブサイトでは、本楽曲に関する直接的な紹介は見られないものの、市の公式YouTubeチャンネルでは、2019年（平成31年）4月より「誓いのうた」をBGMとして使用した「豊田市民の誓いのうた体操」の動画が公開されており、市民への浸透が図られている。

また、作曲者である若渚氏は、この「誓いのうた」の制作活動をはじめ、地元の文化活動における貢献が評価され、2020年（令和2年）度には豊田文化新人賞を受賞している。このように、「豊田市民の誓いのうた」は、豊田市が独自の歴史的経緯の中で、市民憲章を核として生まれた、地域に根ざした楽曲として位置づけられている。

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