豊穣 (ルーベンスの絵画)

ピーテル・パウル・ルーベンス「豊穣」

作品概要

ピーテル・パウル・ルーベンスによって1630年頃に描かれた油彩画『豊穣』は、フランドル・バロック美術を代表する作品の一つです。板に油彩で描かれたこの作品は、対をなす『正義』とともに、より大きなタペストリーのための下絵として制作されたと考えられています。現在、この作品は東京の国立西洋美術館に所蔵されており、多くの美術愛好家に親しまれています。

詳細な内容

画面の中央には、「豊穣」を擬人化した女性が木陰に座っています。彼女が抱えるコルヌコピア（豊穣の角）は、ローマ神話における豊穣の女神ケレースの象徴であり、あらゆるものが湧き出す力を持つとされます。この角は、ユーピテルが牝山羊アマルテイアの乳を飲んで育ったことへの感謝として与えられたという逸話に基づいています。

コルヌコピアから溢れ出る果物は、人間に対する自然の恵みを象徴的に表しています。画面には二人のプット（幼児の姿をした天使）が描かれており、一人はこぼれ落ちそうな果物を支え、もう一人は地面に落ちた果物を拾い集めています。これらのプットたちの存在は、恵みの豊かさをより一層強調しています。

「豊穣」の女性像とプットたちの背後には、丘が連なる風景が広がっています。素早い筆致で描かれた空には、雲の間に人間の顔を持つ太陽が輝き、劇的な明暗の対比を生み出しています。この風景描写は、ルーベンスの卓越した画力を示しており、作品全体に活気と生命感を与えています。

また、「豊穣」の足元には財布が踏みつけられています。これは、同じくルーベンスが描いた対作品『正義』において、「正義」の擬人像が邪悪の象徴である蛇を踏みつけていることと対比されています。『正義』では、狐から羊（キリスト教徒）を守る姿が描かれており、キリスト教的な意味合いが込められています。同様に、『豊穣』も自然の恵み、つまり神の恵みの象徴である果物が、世俗的な富の象徴である財布と対比して描かれていると考えられます。

作品の背景

ルーベンスは、バロック美術を代表する画家であり、ダイナミックな構図や豊かな色彩表現で知られています。彼の作品は、単なる写実的な表現にとどまらず、寓意や象徴を多用することで、深い意味合いを伝えています。この『豊穣』もその一つであり、ルーベンスの芸術的才能が凝縮された作品と言えるでしょう。

参考文献

『国立西洋美術館名作選』、国立西洋美術館、2016年刊行 ISBN 978-4-907442-13-2
岡田温司監修『「聖書」と「神話」の象徴図鑑』、ナツメ社、2011年刊行 ISBN 978-4-8163-5133-4
山崎正和・高橋裕子『カンヴァス世界の大画家13　ルーベンス』、中央公論社、1982年刊行 ISBN 978-4-12-401903-2

外部リンク

国立西洋美術館公式サイト、ピーテル・パウル・ルーベンス『豊穣』

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