貴族院議長 (イギリス)

イギリス貴族院議長：歴史と役割

イギリスの貴族院議長は、貴族院における議事運営を担う重要な役割を担っています。中世から2006年までは大法官がその職務を兼ねていましたが、2005年の憲法改革法によって、大法官の職務と分離され、独立した貴族院議長のポストが新設されました。

歴史的経緯

長年にわたり、イギリスの大法官は貴族院議長の役割を兼務していました。しかし、近代的な議院運営の必要性や、大法官の職務負担軽減といった要請から、大法官の職務と貴族院議長の職務を分離することが決定されました。2005年の憲法改革法はこの改革を法制化し、2006年から独立した貴族院議長が選出されるようになりました。

この改革は、イギリスの議会制度における大きな転換点となりました。大法官は、内閣の一員でありながら司法権の最高責任者としての役割を担っていました。この兼任は、立法府と司法府の分離という近代民主主義の基本原則に反するという批判がありました。

貴族院議長の設置によって、立法府と司法府の分離が明確になり、議院運営の効率性と透明性の向上に繋がることが期待されました。

選出と任期

貴族院議長は、貴族院議員の互選によって選出されます。これは、貴族院議員たちが、自分たちの代表として、議長を選ぶことを意味します。任期は5年で、最長2期まで務めることができます。

議長選挙においては、党派を超えた中立性が重視されます。そのため、政党に所属する議員が立候補する場合、選挙活動中は党派を離れて無所属として活動することが求められます。これは、議長が公平に議事を運営することを保障するための重要な要素です。

貴族院議長は、庶民院議長とは異なり、議事への参加や院の秩序維持を直接的に担うことはありません。院全体の秩序維持は、貴族院全体で担うことになります。ただし、補佐役として20～25人の副議長が任命され、議長の職務を支えています。

歴代貴族院議長

最初の貴族院議長選挙は2006年に行われ、労働党出身のヘレン・ヘイマン女男爵が選出されました。その後、フランセス・デ・スーザ女男爵、ノーマン・ファウラー男爵と続き、2021年にはジョン・フランシス・マクフォール男爵が選出されています。歴代議長たちは、党派を超えた立場から、公平で円滑な貴族院の運営に貢献しました。

参考文献

古賀豪、奥村牧人、那須俊貴『主要国の議会制度』（PDF）国立国会図書館調査及び立法考査局、2009年
神戸史雄『イギリス憲法読本』丸善出版サービスセンター、2005年
* 高野敏樹『イギリスにおける「憲法改革」と最高裁判所の創設：イギリスの憲法伝統とヨーロッパ法体系の相克』上智短期大学、2010年

まとめ

イギリスの貴族院議長は、近代議会制度における重要な役割を担っています。大法官からの役割分離、貴族院議員による互選、党派を超えた中立性といった特徴は、イギリスの議会政治におけるバランスと透明性を保つ上で重要な要素となっています。今後の貴族院の運営においても、貴族院議長の役割はますます重要になっていくでしょう。

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