赤旗共産党

赤旗共産党（ビルマ語: အလံနီကွန်မြူနစ်ပါတီ、英語: Red Flag Communist Party: RFCP）は、ミャンマー（旧ビルマ）における共産主義政党の一つです。正式名称は単に「共産党」でしたが、結成時に配布されたビラに「赤旗」の文字があったことから、この通称で広く知られるようになりました。急進的な指導者タキン・ソーによって率いられ、1946年にビルマ共産党（CPB）から分離する形で結成されました。

前史：タキン・ソーという人物

赤旗共産党の創設者であるタキン・ソーは、1906年にモーラミャインで生まれたモン族です。青年期にはバーマ・オイルに14年間勤務し、オペラ歌手やバイオリン奏者としても優れた才能を持っていました。1938年に結成されたビルマ共産党（CPB）の創設メンバーの一人であり、また独立運動組織ドバマ・アシアヨネ（通称：タキン党）にも参加しています。彼は大戦前、ビルマ仏教の概念を巧みに用いてマルクス・レーニン主義の政治思想を紹介し、知識人から高い評価を得ました。1938年の油田ストライキ、いわゆる「1300年革命」の発端となった運動でも主導的な役割を担い、当時から最も急進的な共産主義者として知られていました。ミャンマー政府の記録によると、彼は極めて冷酷な手段をいとわない、多読で多作な人物であり、テロリスト、有能な宣伝家、そして勇敢な運動家の資質を兼ね備えていたと評されています。

抗日闘争とCPBからの離脱

第二次世界大戦中、タキン党内では日本の協力か連合国との連携かで意見が対立しましたが、ソーはファシズムと軍国主義を主要な敵と位置づけ、まずイギリスなどと連携し、後にソ連と同盟して日本を攻撃すべきだと主張しました。1941年7月、インセイン刑務所に収監されていたソーは、後にCPB議長となるタキン・タントゥンと共に、この方針を記した「インセイン宣言」を発表しました。1942年の日本軍侵攻後に釈放されると、彼は徹底した抗日闘争に身を投じ、有名無実化していたCPBを再建。1944年1月には書記長に選出されました。日本軍の独立に対する消極性が明らかになると、アウンサンは反ファシスト人民自由連盟（AFPFL）を結成し、CPBもこれに参加。1945年3月の抗日武装蜂起に際しては、ソーは戦略的な軍管区の政治顧問を務め、解放戦争におけるCPBの貢献は多大なものでした。

しかし終戦後、ソーはイギリスを信用せず、武力による完全独立の必要性を強く主張しました。1946年初頭のCPB中央委員会会議で、当時の主流派が唱える社会主義への平和的移行論（ブラウダーイズム）を激しく批判。一時的に指導部を刷新しますが、旧指導部の復帰後、「日和見主義者との決別こそが最大の革命だ」と宣言し、他の7名の中央委員と共にCPBを離脱。赤旗共産党を結成しました。党本部をヤンゴンに置き、各地の農村部に拠点を構築しました。

過激な活動と党勢の衰退

赤旗共産党は、CPBの穏健路線を批判して生まれただけに、その活動は極めて過激で残虐なものでした。スローガンは「われわれは戦うことをいとわない、われわれは殺すことをいとわない、われわれは死ぬことをいとわない」。農地政策では、CPBが土地再分配を目指したのに対し、赤旗は農村の即時集団化を強行し、抵抗する地主や僧侶を銃殺するなど容赦がありませんでした。このため農民からの支持は得られませんでしたが、ソーの優れた知性に惹かれた都市部の知識人層（公務員、教師、弁護士、学生など）からは厚い支持があり、地下ネットワークを通じて影響力を維持しました。党は過激な反政府キャンペーンを展開し、度々非合法化され、ソー自身も逮捕と釈放を繰り返しながら地下活動を続けました。

少数民族武装勢力との関係では、民族主義の大義に理解を示す姿勢から、CPBよりも良好な関係を築くことがありました。国家構想においても、CPBが中国型の少数民族自治区を主張したのに対し、赤旗はソ連型の「人民共和国」による連邦制（離脱権あり）を主張。アラカン人民解放軍（APLP）などとの連携もありましたが、人民民主戦線のような統一戦線はすぐに瓦解しました。カレン民族同盟（KNU）とは一時期友好的でしたが、ソーがKNU支配地域内で別のカレン政党を組織しようとしたことで関係が悪化しました。

1953年には内部対立から党が分裂し、ソーが側近を優遇したことで離脱者が増加。党勢は次第に衰退し、1950年代後半には数百人規模となりました。活動は警察署襲撃などのゲリラ攻撃に限定されるようになります。1961年の党大会でソーが政府に対し融和的な姿勢を示したこと、1962年にラカイン族幹部を排除したことなどから、多くの支持者が離反し、党の衰退は顕著となりました。

和平交渉と党の末路

党勢が退潮する中、1963年に政府主催で開催された和平交渉にソーは参加します。ヤンゴンでの交渉では、ソーはスターリンの肖像画を飾り、フルシチョフや毛沢東を批判するなど異例の言動を繰り返し、政府は「驚くべき非礼」として交渉をわずか3回で打ち切りました。交渉決裂後、ソーは「平和預言者」と称する使節団をヤンゴンに送りますが、彼らは逮捕されました。赤旗共産党の衰退は止まらず、1960年代後半にはわずかな勢力となり、司令部をジャングルに移さざるを得なくなりました。投降した元党員は、党の壊滅状態や指導部の腐敗を証言しています。1970年、ソーはヤンゴンで逮捕されます。彼はBSPP（ビルマ社会主義計画党、当時の政府政党）への入党を申請するなど、支持者からは政府への投降と解釈される言動が見られました。そして1975年、国軍の大規模な掃討作戦により、赤旗共産党はほぼ壊滅しました。

指導者の晩年と党の消滅

ソーは死刑判決を受けますが、1974年に減刑され、1980年の大恩赦で釈放されました。釈放にはBSPP内の元赤旗支持者の働きかけがあったと言われています。政府からはミャンマー独立への功績として国民栄誉賞と国家年金が授けられ、ヤンゴンで穏やかな年金生活を送りました。かつての戦友であるネ・ウィンの自宅にも頻繁に招かれたといいます。1988年の民主化運動の際には蜂起を支持する声明を発表し、元赤旗支持者が結成した統一発展党（UDP）の後援者となりましたが、この党は選挙で振るいませんでした。1989年にはアウンサンスーチーに対し、自身の過ちを繰り返さぬよう警告する手紙を書いたと伝えられています。同年5月6日、ソーは死去しました。

ソーの逮捕後も、赤旗共産党の一部残党は、タウダに率いられた約20人ほどのメンバーが、ラカイン族武装勢力の庇護の下、バングラデシュ国境地帯で細々と活動を続け、1980年代後半まで存在していたとされています。しかし、組織としての赤旗共産党は1975年の壊滅をもって事実上消滅しました。

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