趁火打劫

趁火打劫（ちんかだこう）

趁火打劫は、三十六計の第五計に数えられる計略で、「火に趁（つけこ）んで劫（おしこみ）を打（はたら）く」と読み下します。これは、敵が危機的な状況にある時、その隙に乗じて利益を得ることを意味します。

本文の解釈

敵之害大、就勢取利、剛決柔也

この一文は、敵の被害が大きい時に、その勢いに乗じて利益を得るべきであると説いています。これは、易経の澤天夬（たくてんかい）の卦に当てはめられ、洪水が起こり上下関係が逆転し革新が起こる様を表しています。つまり、敵の混乱に乗じて、大胆に事を進めるべきであるという教えです。

按語・事例

趁火打劫は、いわゆる火事場泥棒の計略として知られています。敵の国内に混乱や災害があればその土地を奪い、国外に問題（外患）があればその民を奪い、内外ともに混乱していれば国そのものを奪うという、非常に積極的な戦略です。さらに、この計略には、敵の混乱を謀って作り出す、つまり自作自演で「火事」を引き起こすことも含まれます。

歴史的な事例として、春秋時代の越王の話が挙げられます。越王は、呉が凶作に見舞われた年、さらに呉王が北方の黄池で諸侯会議に出席している留守を狙い、呉を攻撃して大勝利を収めました。これは、呉の弱みにつけ込んだ趁火打劫の典型的な例と言えるでしょう。

また、戦国時代には、斉が韓と同盟して燕を攻めようとした際に、趙と楚が妨害しました。その時、秦と魏が韓を攻めたため、斉王は韓に援軍を送ろうとしましたが、臣下の田忌は、趙や楚が韓を助けるだろうから放置しておくように諫めました。果たして、趙と楚は韓に援軍を出し、秦、魏、趙、楚、韓の間で戦争が勃発しました。その間、斉は一国単独で燕を攻めましたが、他国の妨害がなかったため、わずか30日で攻略に成功しました。この事例は、他国間の争いを利用して、自国の利益を最大化する趁火打劫の応用例と言えます。

まとめ

趁火打劫は、敵の弱みや混乱を冷静に見抜き、好機を逃さずに利益を得るための戦略です。しかし、この計略は、道義的に問題がある場合や、周囲の状況を誤ると自国に災いをもたらす可能性もあるため、慎重に判断する必要があります。状況を的確に分析し、リスクを考慮した上で実行することが重要です。

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