越前竹人形

『越前竹人形』

『越前竹人形』は、水上勉の1963年に発表された小説であり、同名の映画や舞台、ドラマが続いて制作され、日本文化にその名を刻みました。本作品は、福井県に伝わる竹細工文化を背景に、人物たちの感情や運命が交錯する物語を展開させています。

あらすじ

物語は、大正11年の秋に福井県の一角、竹神部落で始まります。68歳で亡くなった竹細工師、氏家喜左衛門の息子、喜助は21歳となり、父の残した技術や理念を受け継いでいます。ある日、喜助の元に「芦原の玉枝」という名の女性が現れ、彼の父の墓参りを果たします。彼女の涙に心を動かされた喜助は、春が訪れた際に玉枝を追い求め、芦原温泉街の遊廓で彼女を見つけます。

玉枝の部屋に飾られた竹人形は、喜助の父からのもので、彼はその美しさに驚愕します。それ以降、喜助は玉枝に惹かれ、夏からは二人の同棲生活が始まります。しかし、喜助は夜の生活を拒んでおり、その理由は三歳で亡くなった母への憧れが玉枝に重なっているからでした。喜助は竹細工の仕事をする中で、玉枝に対する感情を竹人形に込めて表現していくのです。

しかし物語は意外な展開を迎えます。喜助の留守中、玉枝は京の老舗人形卸元、崎山忠平に身を委ね、不幸な妊娠を経験します。告白した際には信じてくれず、彼女の運命はさらに厳しいものとなります。後の長い旅の中で、玉枝は心の葛藤と向き合いながら、川に流された子を思い出し、深い感謝の思いを抱きます。

最終的に、玉枝は健康を害し、結核という病にかかり、二ヶ月の看病の後に息を引き取ります。彼女の死後、喜助は深い悲しみに暮れ、さらには彼自身も謎めいた方法で自らの命を絶つ結果となります。

作品の背景とキャラクター

水上勉は自身の父親が竹細工職人であったことを明かし、彼の経験が主人公の父、喜左衛門のモデルになっています。また、玉枝のキャラクターに関しても、著者の実生活のエピソードが反映されています。

作品は当初、越前地域の独自の竹細工文化を反映したものですが、後にこの小説がきっかけとなり、同名の郷土玩具「越前竹人形」が登場します。1994年には福井県の郷土工芸品に指定されることとなります。竹で作られた人形は、衣装や髪の毛まで全て竹で表現され、地域の文化を象徴する存在となったのです。

評価と影響

小説は連載後、著名な文人からも高く評価され、愛されてきました。特に、谷崎潤一郎からの賛辞も受け、作品に対する関心が寄せられました。その後、作品が映像化されるなど、さまざまなメディアを通じて再評価されていきました。

『越前竹人形』は単なる物語にとどまらず、人々の複雑な思いを掘り起こしながら、竹という素材を通じた愛と運命の輪廻を描いた作品です。今日でも多くの人々に影響を与え、語り継がれる存在となっています。

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