路考茶

路考茶：江戸の女性を魅了した、個性的な茶色

路考茶（ろこうちゃ、ろかうちや）は、江戸時代に一世を風靡した、独特の色合いです。赤みがかった暗い黄褐色と表現されることが多いですが、明和3年（1766年）の川柳に「うくひすといふて路考は染めにやり」という記述があることから、鶯色（うぐいすいろ）と同一視する説もあります。当時の鶯色は、現代の鮮やかな鶯色とは異なり、茶色がかった色味だったと考えられており、この説に従えば路考茶は緑がかったくすんだ茶色という解釈も可能です。

路考茶の名は、歌舞伎役者の二代目瀬川菊之丞（通称：王子路考）に由来します。明和3年、人気演目『八百屋お七』で下女お杉役を演じた際に、王子路考がこの色を身につけました。その洗練された色使いは、たちまち江戸中の女性たちの心を掴み、路考茶は瞬く間に流行色となりました。

この流行は明治時代まで続き、路考茶は長く人々に愛され続けたことがわかります。特定の有名人にちなんだ色名としては、路考茶が最も代表的な例と言えるでしょう。その人気ぶりは、現代においても、多くの文献や資料を通して垣間見ることができます。

路考茶のような、特定の人物にちなんだ色名は、他にもいくつか存在します。例えば、初代尾上菊五郎好みの色である梅幸茶（うめこうちゃ）、初代嵐璃寛好みの色である璃寛茶（りかんちゃ）、三代目中村歌右衛門好みの色である芝翫茶（しかんちゃ）、そして市川家の家色である団十郎茶（だんじゅうろうちゃ）などです。これらも、それぞれの時代の流行や、著名な役者たちの個性と深く関わりながら、日本の伝統色の豊かさを示す貴重な例となっています。

路考茶の色合いは、時代や見る人によって異なった解釈がされる可能性があります。しかし、その曖昧な表現の中にこそ、路考茶の魅力があると言えるでしょう。当時の衣服や絵画などに用いられた路考茶の色を、現代の私たちが正確に再現することは困難かもしれません。それでもなお、路考茶という名前が持つ歴史的背景や、人々の心を掴んだその人気の高さは、色そのもの以上に大きな価値を持つと言えるのではないでしょうか。

参考文献

福田邦夫『すぐわかる 日本の伝統色』東京美術 ISBN 4-8087-0784-5
吉岡幸雄『日本の色辞典』紫紅社 ISBN 4-87940-549-3

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