軍艦島 (映画)

2017年公開韓国映画『軍艦島』：成功と論争の影

2017年公開の韓国映画『軍艦島』（原題：군함도）は、日本統治時代の長崎県端島（通称：軍艦島）を舞台に、強制労働を強いられた朝鮮人たちの脱出劇を描いた作品です。リュ・スンワン監督（『ベテラン』）がメガホンを取り、ソン・ジュンギ、ソ・ジソブなど人気俳優が出演したことから、公開前から大きな注目を集めました。

撮影は韓国各地で行われ、公開に先駆けて公開された予告編は、瞬く間に100万回以上の再生数を記録。公開初日には97万人以上の観客動員数を達成し、韓国映画のオープニング興行記録を塗り替えました。

しかし、この華々しいデビューの裏では、大きな批判が噴出することになります。まず問題となったのは、公開における圧倒的なスクリーン数の確保です。公開初日、全スクリーン数の85％以上を『軍艦島』が占めるという、事実上の独占状態は、他の映画関係者や観客から強い反発を招きました。

さらに、映画の内容についても史実との乖離を指摘する声が続出しました。派手なアクションシーンはエンターテイメント性が高い一方、強制労働の実態をよりリアルに描いた作品を期待していた観客からは、期待外れとの評価が下されました。また、同時期に公開された光州事件を扱った映画『タクシー運転手』が高評価を得たことも、『軍艦島』の興行成績低迷の一因と言われています。日刊スポーツは、『軍艦島』が観客の期待に応える「物語を描くことに失敗した」と分析しています。

興行成績の低迷は、製作会社に大きな損失をもたらし、監督の妻である製作会社社長は複数の映画協会からの脱退を余儀なくされました。

史実との相違点と論争

『軍艦島』は、フィクションであるものの、端島の実際の労働環境とは異なる描写が多く、元島民らから反論の声が上がっています。特に、朝鮮人労働者への過剰な暴力描写や、劣悪な労働環境の誇張、大量殺人の描写などは、史実と大きく異なる点を指摘されています。

「軍艦島を世界遺産にする会」も、映画の内容を端島の歴史を全否定する捏造と批判。「一部の過激な活動家や運動家による日韓両国の敵対を扇動するプロパガンダではないか」という指摘も出ています。

一方、韓国側は、映画の内容を裏付ける証言や資料が存在すると反論。リュ・スンワン監督自身も、産経新聞の反論に対し、取材に基づいた事実だと主張しています。しかし、映画のプロモーションで用いられた写真が、軍艦島とは無関係な写真であったことが発覚するなど、広報面でも問題が発生しました。

端島の元島民らで構成される「真実の歴史を追求する端島島民の会」は、映画と史実の相違点を指摘した反論声明を日本側に送付。映画における朝鮮人への過剰な暴力描写、労働環境の誇張、大量殺人の描写などは、史実と大きく異なる点を詳細に挙げています。 実際の島での警察官の人数、子供たちの通学状況、坑道の深度や労働環境、空襲の回数など、様々な点が映画と異なることが指摘されています。

韓国の慶南女性新聞は、自称「軍艦島生存者」の証言を紹介し、映画のような大規模な殺害や劣悪な環境はなかったと報じています。一方で、中国人の扱いが朝鮮人よりも劣悪であったという証言も紹介されています。

『軍艦島』は、商業的な成功を収めた一方で、史実との乖離や、それをめぐる日韓間の論争を引き起こした、複雑な歴史を持つ映画です。この映画は、単なるエンターテインメント作品としてだけでなく、歴史認識や日韓関係という重いテーマを提起した作品として、今も議論を呼んでいます。

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