軍馬資源保護法

軍馬資源保護法：太平洋戦争下の馬匹政策と競馬

昭和14年（1939年）、国家総動員法の施行を受け、軍馬資源の確保と育成を目的とした軍馬資源保護法が制定されました。この法律は、種馬統制法、競馬法の臨時特例に関する法律とともに、当時の馬政を大きく変革する三法の一つとして位置付けられています。

法の目的と内容

軍馬資源保護法の主要な目的は、軍馬としての素質を持つ馬を「軍用保護馬」として選定し、その育成と能力維持を図ることでした。具体的には、保護馬の選定、育成のための奨励策、能力向上のための鍛錬などが実施されました。特筆すべきは、馬券の発売が優等馬への投票という形で認められた点です。この投票を伴う鍛錬競走が、軍用保護馬鍛錬競走として開催されました。競走の主催者は、当初は畜産組合連合会と畜産組合でしたが、後の法改正で馬匹組合連合会と馬匹組合へと名称変更されています。

法の改正

軍馬資源保護法は、時代の変化や他の法令との整合性確保のため、何度か改正されています。

昭和15年改正: この改正では、軍用保護馬鍛錬中央会に対する所得税、営業収益税（後に営業税に改称）および法人税の非課税が明記されました。租税法規の改正に伴うもので、昭和15年4月1日から施行されました。
昭和18年改正: 昭和18年の改正は、農業団体法の制定に伴うものでした。畜産組合連合会と畜産組合の名称を、それぞれ馬匹組合連合会と馬匹組合へと変更。また、軍用保護馬鍛錬中央会に関する規定は削除されました。この改正は、昭和19年3月28日から施行されました。

軍用保護馬鍛錬競走

軍馬資源保護法に基づき開催された軍用保護馬鍛錬競走は、馬の育成と軍馬資源確保という国家的な目的を有していました。昭和16年3月、取手競馬場での開催を皮切りに、全国各地の競馬場で実施されました。しかし、太平洋戦争の激化に伴い、昭和19年には中止を余儀なくされました。

廃止

太平洋戦争終戦後の昭和20年（1945年）11月21日、ポツダム宣言受諾に伴う勅令により、軍馬資源保護法は廃止されました。戦争終結により、軍馬の必要性がなくなったことが廃止の直接的な理由と考えられます。

歴史的意義

軍馬資源保護法は、戦時下の特殊な状況下で制定された法律であり、その内容は当時の社会情勢を反映しています。馬券発売を国家的な馬匹育成政策に結びつけるという、現代の競馬とは異なる側面も持っていました。この法律は、日本の馬政史、そして太平洋戦争下の社会経済史を理解する上で、重要な資料となります。法の成立背景、内容、改正、廃止に至る経緯を詳細に検討することで、戦争と社会、国家と民間の複雑な関係性を考察することができます。また、軍用保護馬鍛錬競走の存在は、当時の競馬と国家政策の関わりを如実に示しています。歴史研究において、この法律は貴重な一次資料として活用されています。

参考文献

杉本竜「日本陸軍と馬匹問題：軍馬資源保護法の成立に関して」
萩野寛雄「「日本型収益事業」の形成過程：日本競馬事業史を通じて」

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