輝ける闇

『輝ける闇』

『輝ける闇』（かがやけるやみ）は、日本の小説家、開高健（かいこう たけし）によって執筆された長編小説です。1968年、新潮社から「純文学書下ろし特別作品」として発表され、同年に毎日出版文化賞を受賞しました。

作品の背景と主題

本作は、作者である開高健自身が、ベトナム戦争の渦中に取材のため南ベトナム政府軍に同行し、激しい戦闘に巻き込まれながらも奇跡的に生還したという、極めて衝撃的な実体験が色濃く投影されているとされています。物語は、ベトナム戦争へ取材に赴いた日本の新聞記者である主人公「私」の一人称視点で展開します。その内容は、単なる戦場のルポタージュにとどまらず、極限状況下で揺れ動き、変容していく主人公の内面に深く焦点を当てています。戦況の推移、周囲を取り巻く過酷な環境、そして主人公自身の内面的な変化に応じて、彼自身の戦争に対する向き合い方や、その渦中での立ち位置もまた刻々と変化していく様が克明に描かれます。

『輝ける闇』は、ベトナム戦争を題材とした日本文学作品の中でも特に重要な一作として評価されており、開高健文学における大きな転換点を示す作品とも位置づけられています。また、本作は、後に発表される『夏の闇』、そして未完となった『花終わる闇』へと続く、いわゆる「闇三部作」の第一作にあたります。

あらすじ

物語は、主人公である「私」が、とある新聞社の記者としてベトナム戦争の取材を開始するところから始まります。彼は、キェム大佐率いるベトナム軍や、ウェイン大尉指揮下のアメリカ軍部隊に従軍し、戦場の現実を肌で感じていきます。現地のアメリカ兵やベトナムの人々と交流し、戦争の日常に触れる中で日々を過ごしますが、サイゴンでクーデターが発生するという噂耳にし、一時的に安全なサイゴンへと戻ることを余儀なくされます。サイゴンでは、クーデターに関する情報を収集しつつ、日本から来た記者仲間との交遊を深め、また情婦である素娥（トーガ）と再会するなど、一時的に戦場の緊迫感から離れた安寧な日々を送ります。しかし、そのような平穏も長くは続かず、再び主人公の心境に変化が訪れます。それは、かつて主人公の有能な通訳を務めていた青年が兵士として戦場に送られたことや、とあるアメリカ人との運命的な出会いを経てのことでした。これらの出来事が彼の内面に深く影響を与え、再び戦場へ身を投じる決意を固めます。そして主人公は、二度目に足を踏み入れた戦場において、予測もつかない大規模な銃撃戦の渦中に巻き込まれていくのです。

主な登場人物

私（主人公）: 物語の語り手であり主人公。日本の新聞社の記者として、ベトナム戦争を取材するため現地のアメリカ軍部隊などに従軍します。
ウェイン大尉: 主人公が従軍するアメリカ軍部隊の指揮官の一人である大尉。
キェム大佐: 主人公が従軍する南ベトナム政府軍の司令官。
素娥（トーガ）: サイゴンの酒場「プレジール」で働く少女。主人公の情婦。

書籍情報

本作は、刊行以来、様々な形態で出版されています。

1968年4月：単行本『輝ける闇』として新潮社より刊行。
1971年：『新潮日本文学 第63巻 (開高健集)』に収録（新潮社）。
1972年：『戦争文学全集 第6巻』に収録（毎日新聞社）。
1974年：『開高健全作品 小説8』に収録（新潮社）。
1982年10月：新潮文庫より文庫版が刊行。
1988年7月：『昭和文学全集 第22巻 (中村真一郎・井上光晴・開高健・北杜夫・三浦朱門)』に収録（小学館）。
1992年5月：『開高健全集 第6巻』に収録（新潮社）。
2015年8月：『日本文学全集 第21巻』に収録（河出書房新社）。

これらの出版経緯からも、本作が日本文学史において長く読み継がれる重要な作品であることがうかがえます。

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