輿水肇

輿水 肇

輿水 肇（こしみず はじめ、1944年6月1日 - 2020年2月29日）は、日本の緑化造園分野における傑出した研究者であり、教育者、そして社会活動家であった。東京都に生まれ、農学博士として、特に都市における人工地盤や特殊な条件下での緑化技術、運動場芝生の造成・維持管理に関する研究を専門とした。長年にわたり明治大学農学部で後進の指導にあたり、日本の緑化技術と学術の発展に多大な貢献を残した。

経歴

東京大学農学部を1968年に卒業後、同大学院農学系研究科博士課程に進学し、1972年に単位を取得して退学した。その後、東京大学農学部助手として研究生活を開始し、1976年には東京大学より農学博士号を授与された。1979年、明治大学農学部に専任講師として迎えられ、緑化造園学の研究室を率いることとなる。助教授を経て、1989年からは教授に昇任し、2015年に退職するまで、多くの学生や研究者を育成した。

研究業績

輿水氏の研究テーマは、単なる植物の利用に留まらず、運動場のような利用頻度の高い場所における芝生の耐久性向上技術、ビル屋上や地下構造物上といった人工的な環境での植栽基盤の開発と植物選択、都市の緑がもたらす環境改善効果（ヒートアイランド抑制、生物多様性保全など）の科学的解明など、実践的かつ応用範囲の広いものであった。特に、都市化が進む中で失われつつある緑を、いかに創出し、維持していくかという喫緊の課題に対して、技術的な解決策を提示し続けた。その研究成果は、数多くの論文や著書として発表され、専門家だけでなく、実務家や行政担当者にも大きな影響を与えた。

社会活動と貢献

学術界だけでなく、社会の様々な領域でそのリーダーシップを発揮した。公益財団法人都市緑化機構では、代表理事・理事長として、国の緑化推進政策の策定や実行に深く関わった。また、自然環境共生技術協会の会長、TOKYO GREEN 2020推進会議の会長を務めるなど、都市環境の改善と緑化の推進に向けた幅広い活動を展開した。さらに、(社)日本緑化工学会会長、(社)日本造園学会会長といった主要な学術団体のトップを歴任し、学術研究の発展と普及に尽力した。この他にも、都市緑化技術開発機構や国立公園協会、日本緑化センター、日本公園緑地協会などの評議員や理事を務め、川崎市公共事業評価審査委員会委員、防災公園計画設計・管理運営ガイドライン改訂検討委員会委員、鎌倉市緑政審議会会長など、多岐にわたる委員会活動にも参加し、行政における緑化や環境分野の意思決定にも貢献した。

受賞歴

その長年の研究と社会への貢献は、数々の栄誉ある賞によって称えられた。1979年には日本造園学会の学会賞（論文調査部門）を受賞し、研究者としての基盤を確立した。その後も、2008年に日本公園緑地協会 北村賞、2014年に日本緑化工学会 学会賞（功績賞）、2015年に日本造園学会 上原敬二賞、2016年に日本公園緑地協会 佐藤国際交流賞を受賞するなど、各分野からの高い評価を受け続けた。中でも、2019年に受賞したみどりの学術賞は、緑化に関する研究開発、技術開発等において特に顕著な功績を挙げた個人に贈られる極めて権威のある賞であり、輿水氏の生涯にわたる貢献が改めて高く評価された証である。

主な著作

単著、共著、監修を含め、多数の書籍を出版している。代表的なものには、『建築空間の緑化手法』（1985年）、『環境をつくる花』（2005年）といった単著のほか、『緑と居住環境』（共著、1984年）、『造園学』（共著、1986年）、『新訂芝生と緑化』（共著、1988年）、『緑を創る植栽基盤』（共著、1998年）、『立体緑化による環境共生』（共著、2005年）、そして『屋上緑化設計・施工ハンドブック』（監修、2009年）などがある。これらの著作は、日本の緑化技術の普及と発展において重要な役割を果たした。

輿水肇氏は、生涯を通じて都市の緑が持つ可能性を追求し、その研究成果と情熱をもって、日本の緑化造園分野、そして広く都市環境の向上に多大な貢献をした人物である。

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