農商工連携

農商工連携（のうしょうこうれんけい）

概要

農商工連携とは、農林水産業に携わる人々（農林漁業者）と、商業・工業などの商工業者が、互いが持つ経営資源（技術、ノウハウ、人材、販路など）を有効に活用し、新たな商品やサービス、あるいは生産技術等の開発、そしてそれらの販路開拓などに取り組む活動全般を指します。これは、それぞれの産業の強みを組み合わせることで、地域資源の価値を高め、新しいビジネスを生み出し、地域経済の活性化を目指す重要な取り組みです。この概念が具体的に推進され始めたのは、2007年（平成19年）11月からであり、日本の農林水産省と経済産業省が中心となって支援を行っています。

法的根拠と国の支援

農商工連携をより一層促進するため、2008年（平成20年）7月21日には「中小企業者と農林漁業者との連携による事業活動の促進に関する法律」（通称：農商工等連携促進法）が施行されました。この法律に基づき、農商工連携に取り組もうとする中小企業者と農林漁業者は、共同で作成した事業計画を国に提出し、認定を受けることができます。一度国から認定された事業計画に基づき活動する事業者に対しては、様々な支援措置が講じられます。具体的には、低利での資金調達（融資）や、税金に関する優遇措置などが提供され、連携事業の実現と成功を強力に後押しします。

認定の要件

国の支援を受けるための事業計画認定には、いくつかの重要な要件があります。単に農産物を商工業者が買い取る、といったような従来の商取引関係だけでは認定の対象とはなりません。連携する中小企業者と農林漁業者の双方が、事業に対して主体的に関与することが必須です。また、互いの得意分野である経営資源を持ち寄り、創意工夫を凝らした新しい事業内容である必要があります。さらに、その事業によって開発される商品やサービスは、過去に両者が手がけたことのない「新たな」ものであること、そして市場での需要が見込まれ、連携に参加する事業者それぞれの経営状況の改善に繋がることが基本的な条件となります。例えば、単に養豚場の近くにハム加工工場を建設し、豚肉を供給するといったケースは、上記の新規性や主体的な資源融合といった要件に合致しないため、支援対象とはなり得ません。

これまでの経緯

農商工連携という考え方は、2007年11月30日に政府が策定した「地方経済再生のための緊急プログラム」の中で、「地域の基幹産業である農業と商工業が有機的に連携することで、新たなビジネスを生み出し地域経済の活性化に繋がる」という発想から生まれました。その後、関連する法案が準備され、2008年2月8日には「農商工等連携促進法案」などが閣議決定され国会に提出されました。同年5月16日には両法案が可決・成立し、5月23日に公布、7月21日に施行されました。法制化を受けて、農林水産省と経済産業省は2008年度にそれぞれ100億円ずつ、合計200億円の関連予算を確保し、推進体制を強化。同年中には、優れた事例を選定する「農商工連携88選」の発表や、関係者を集めたサミットやフォーラムの開催、さらには研究会の立ち上げなど、活発な動きがありました。2009年度には関連予算が合計約330億円へと増額され、国による認定案件数も着実に増加しました。このような経緯を経て、農商工連携は地域経済活性化のための重要な柱の一つとして位置づけられています。

具体的な支援策と成功事例

国の支援は、法律に基づく事業計画認定後の直接的なものだけではありません。地域の特産品を全国にPRし、販路を開拓するためのインターネットショッピングサイトの運営支援や、「にっぽんe物産市」のようなプラットフォーム提供、あるいは商店街の空き店舗を活用して地元農産物のアンテナショップを設置・運営する事業への補助金など、多岐にわたる施策が実施されています。

成功事例としては、高品質なシラス製品の開発・製造・販売が挙げられます。この事例では、乳業者が開発した独自の加熱水蒸気殺菌技術を、漁業者や卸売業者との連携に活用しました。新しい殺菌処理法を導入することで、シラスの賞味期限を従来の3倍に延ばすことに成功しただけでなく、味や風味も向上しました。さらに、卸売業者との連携により、漁獲から加工、流通に至るまでの履歴を追跡できるトレーサビリティシステムも構築され、消費者からの安全面での信頼獲得にも繋がりました。これは、異業種間の技術と経営資源の融合がもたらした好例と言えます。

今後の展開と推進体制

農商工連携をさらに発展させるためには、農林水産物の生産現場である「川上」から、加工、流通を経て消費者の手に届く「川下」まで、一連の流れ全体を見通した連携を強化することが不可欠です。この目標を達成するため、農林水産省と経済産業省は中心となり、関係省庁はもちろんのこと、都道府県や市町村、農業協同組合、商工会議所、中小企業等協同組合、金融機関など、地域により密着した多様な関係機関とも連携を図っています。その結果、全国各地で、異業種の事業者が出会い、連携の可能性を探るための勉強会やマッチングイベント、商談会などが多数開催され、地域ぐるみの推進体制が構築されつつあります。

近年では、富山県氷見市におけるハトムギ茶や、沖縄県読谷村での紅いもタルト開発など、地域の主要農産物を核とした農商工連携を通じて、地域全体の活性化を実現している事例が全国各地で見られるようになりました。これらの事例は、「農商工連携88選」や国の認定事例集などで詳しく紹介されており、新たな連携を模索する事業者にとって貴重な参考情報となっています。

農商工連携は、地域に眠るポテンシャルを引き出し、新たな価値を創造することで、地方創生にも貢献する重要な取り組みとして、今後もその展開が期待されています。

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