農業党 (チェコスロバキア)

チェコスロバキア農業党：農民の声を代弁した政党の興亡

農業党（Republikánská strana zemědělského a malorolnického lidu - RSZML）は、かつてチェコスロバキアに存在した重要な政党です。特に戦間期においては、一時期を除き政権与党の地位を占め、首相を輩出するなど、チェコスロバキア政治において大きな影響力を持っていました。この政党は、農村の大地主層を中心に、小地主や農業労働者といった幅広い農業関係者の利益を代表し、その声を政治に反映させる役割を担っていました。

党名の変遷

農業党は、その歴史の中で何度か党名を変更しています。

1899年：チェコ農業党（Česká strana agrární）として発足
1905年：チェコスラブ農業党(Českoslovanská strana agrární)に改称
1919年：チェコスロバキア農村共和党（Republikánská strana československého venkova）に改称
1922年：農業者・小農民共和党（Republikánská strana zemědělského a malorolnického lidu - RSZML）として最終的な党名に

ハプスブルク帝国時代

1848年の隷農禁止令以降、ボヘミア地方の農村社会では、農民の政治参加への動きが活発化しました。当初、農民たちは国民党（老チェコ党）や国民自由党（青年チェコ党）といったリベラル政党を通じて利益を追求していましたが、都市市民層を基盤とするこれらの政党は、農業問題への関心が薄く、農民たちの不満が高まりました。

1880年代に入ると、農民の発言力強化を目指し、各地で農民結社の設立が相次ぎました。1897年にはチェコ営農家連合が結成され、1899年1月6日の総会で農業党の設立が決定されました。1903年には綱領を採択し、1905年にはモラビアおよびシレジアにおけるチェコ農業党と合同し、チェコスラブ農業党と党名を変更しました。1909年にはアントニーン・シュヴェフラが党首に就任し、党の組織拡大に尽力しました。

1907年の帝国議会選挙では23議席を獲得し、チェコ系政党の中で第一党となり、24677の地方組織や9万人を超える党員を擁する大衆政党としての地位を確立しました。1911年の男子普通選挙法施行後初の帝国議会選挙では、約26万票を獲得し、社会民主党に次ぐ第二党となりました。

チェコスロバキア第一共和国時代

1918年のチェコスロバキア建国後、農業党は多くの政党が乱立する中で、議会政治における「かなめ党」として、東欧の新興独立諸国の中で例外的に議会制民主主義体制が機能する役割を担いました。シュヴェフラ（1922-26、1926-1929）、フランチシェク・ウドルジャル（1929-1932）、ヤン・マリペトル（1932-1935）、ミラン・ホッジャ（1935-1938）、ルドルフ・ベラン（1938-1939）といった首相を輩出しました。

1922年には、スロバキア国民共和農民党を吸収し、農業者・小農民共和党と改称しました。1933年、シュヴェフラの死去に伴い、ベランが党を率いることとなりました。

しかし、農業党は労働者の利益を代表する社民党や国民社会党との協力に否定的な右派を抱えており、党内対立が頻繁に発生しました。例えば、1932年7月には、社民党に譲歩しがちなウドルジャル政権の政治指導に反発し、年金保険法案の採決に際して、農業党右派に属する上院議員が造反する事態となりました。また、トマーシュ・マサリクの後任を選出する1935年の大統領選挙をめぐっては、エドヴァルド・ベネシュの対立候補として、植物学者で元カレル大学学長のボフミール・ネメツを擁立する動きも見られました。

議席数の推移

農業党の議席数は、以下の通り推移しました（300議席中）。

1918年：55議席（革命国民評議会）
1920年：28議席
1925年：45議席
1929年：46議席
* 1935年：45議席

チェコスロバキア第二共和国以降

1938年のミュンヘン会談後に成立した第二共和国では、1938年11月、国民統一、人民党、商工中産党などと合併し、新たに国民統一党が結成され、ベランが党首となりました。一方、エドヴァルド・ベネシュ率いる亡命政府には、ホッジャやシュテファン・オススキー駐仏公使が農業党から参加しました。

第二次世界大戦後、第二共和国および大戦・占領期のユダヤ人迫害をはじめとする対独協力のため、農業党は再建を果たすことができませんでした。ベランをはじめとする党指導者は人民裁判にかけられ、一部は国民社会党や人民党に合流しました。1948年の共産化以降は、元内相のヨセフ・チェルニーが中心となって、パリ、その後アメリカで亡命組織が作られました。

農業党は、チェコスロバキアの歴史において、農民の声を代弁し、政治の安定に貢献した重要な政党でした。しかし、その後の歴史的な変遷の中で、再建を果たすことなく、その役割を終えることとなりました。

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