迷路館の殺人

『迷路館の殺人』：閉ざされた館で繰り広げられる、命を賭けた推理ゲーム

綾辻行人による人気推理小説シリーズ「館シリーズ」の第3作、『迷路館の殺人』。本作は、推理小説界の巨匠、宮垣葉太郎の死を起点に、彼の館に集まった面々が、予想だにしない連続殺人事件に巻き込まれる様を描いたサスペンス作品です。

物語は、宮垣葉太郎の還暦祝賀パーティーから始まります。しかし、パーティーに招かれた推理作家や評論家、編集者たちは、宮垣がその朝に自殺したという衝撃的な事実を聞かされます。遺されたテープレコーダーには、5日間にわたる奇妙なゲームの指示が録音されていました。館を出てはならず、警察に通報も許されない、という内容です。そのゲームとは、館を舞台にした殺人事件をテーマにした推理小説を執筆し、最も優れた作品を書いた者に遺産の半分を相続させるというもの。莫大な遺産に目が眩んだ作家たちは、それぞれ執筆に取りかかりますが、やがて、作中と酷似した形で作家たちが次々と殺されていくのです。

個性豊かな登場人物たち

本作に登場する登場人物は、それぞれ個性豊かな面々です。宮垣葉太郎は、推理作家界の重鎮であり、自らの実名で作品を発表してきた、筆名否定論者。彼を囲むように、若手からベテランまで、個性的な推理作家たちが集います。

清村淳一：かつて劇団に所属していた経験を持つ30歳の推理作家。一見好青年だが、複雑な性格の持ち主です。
須崎昌輔：中世ヨーロッパを舞台にした本格ミステリを得意とする41歳の推理作家。高い実力を持つ一方で、遅筆で知られています。
舟丘まどか：かつては人気女流作家として注目を浴びていたものの、現在は伸び悩んでいる30歳の推理作家。清村とは元夫婦です。
林宏也：27歳の若手推理作家で、やや気が弱い性格です。

他にも、鋭い批評眼を持つ評論家・鮫嶋智生、宮垣の担当編集者である宇多山英幸とその妻・桂子、宮垣の秘書・井野満男、館の使用人・角松冨美、そして物語の鍵を握る探偵・島田潔、宮垣の主治医である黒江辰夫などが登場し、物語に奥行きを与えています。

ギリシャ神話と見立て殺人の巧妙な仕掛け

『迷路館の殺人』の舞台となる「迷路館」は、ギリシャ神話の登場人物にちなんだ部屋名を持つ、複雑な構造の館です。この館の構造自体が、物語の謎解きにおいて重要な役割を果たしています。また、作中で起こる殺人事件は、登場人物たちが執筆する小説の内容を反映した「見立て殺人」となっており、その巧妙な仕掛けは、読者の推理力を試す、大きな挑戦となっています。

綾辻行人の緻密な構成と巧みな伏線

綾辻行人は、本作においても、その緻密な構成と巧みな伏線を駆使して、読者を深い謎の世界へ誘います。物語を読み進めるうちに、様々な伏線が回収され、意外な事実が明らかになる展開は、まさに『館シリーズ』ならではの醍醐味と言えるでしょう。

本書は、単なる殺人事件の謎解きだけでなく、作家たちのプライドや葛藤、人間関係など、多様な要素が複雑に絡み合い、読み応えのある作品となっています。 『館シリーズ』ファンはもちろん、本格ミステリ愛好家にとっても、必読の一冊と言えるでしょう。

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