逃した魚

back numberのインディーズ時代を象徴するミニアルバム『逃した魚』は、2011年のリリース以来、多くのファンを魅了し続けています。9曲という一見少ない収録数ですが、ジャケット裏に記された「あなたが逃した魚はこんなに大きくなりました」という言葉が示すように、彼らの音楽的成長の端緒、そして大きな可能性を感じさせる作品となっています。

表向きは7曲収録とされていますが、実際には無音トラックと、ラジオコーナーの音源という2つのシークレットトラックが含まれています。この構成自体が、後の彼らの音楽性や表現方法の多様性を予感させる伏線と言えるかもしれません。歌詞カードの裏面には、「すべての物語とその終わりに感謝します」というメッセージが添えられています。これは、過去の出来事や関係者への感謝、そして新たな出発への決意表明のように感じられ、リスナーの心に深く響く内容となっています。

収録曲の一つである「重なり」は、春の訪れを告げるような温かいメロディーが印象的で、ミュージックビデオも制作されました。この曲は、後にベストアルバム『アンコール』にも収録され、彼らの代表曲として広く親しまれています。

また、「海岸通り」や「KNOCK」など、多くの楽曲が、back number特有の繊細で叙情的な歌詞と、力強くもどこか切ないメロディーで彩られています。特に「西藤公園」というタイトルの曲は、メンバーの清水依与吏さんの出身地である群馬県太田市にある「西藤中央公園」から命名されており、地元への愛着が感じられます。この曲もミュージックビデオが制作されており、彼らの初期の音楽性と、地元への深い繋がりを示す象徴的な作品と言えるでしょう。

アルバム全体を通して、若々しいエネルギーと、同時に未来への希望が感じられます。未完成な部分も魅力の一つとして捉えられ、聴く者の想像力を掻き立てる、独特の雰囲気があります。隠されたトラックの存在も、彼らの音楽に対する遊び心と、リスナーとの距離を縮める工夫が凝らされていると感じさせられます。

『逃した魚』は、単なるデビューミニアルバムという枠を超え、back numberというバンドの原点、そしてその後の飛躍への礎となった、重要な作品と言えるでしょう。彼らの音楽を初めて聴く人にも、古くからのファンにも、それぞれ異なる感動と発見をもたらしてくれる、そんな魅力に溢れた作品です。このアルバムから、彼らがいかにして今の地位を築き上げたのか、そのヒントが感じ取れるはずです。リスナーは、彼らの音楽的成長の軌跡を、このアルバムを通して辿ることができるでしょう。そして、彼らがこれからどんな音楽を生み出していくのか、その未来に期待せずにはいられません。

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