造反有理

造反有理（ぞうはんゆうり）

「造反有理（ぞうはんゆうり）」とは、「造反（反逆、反乱）には理（道理、正義）が有る」を意味する中国語の言葉です。すなわち、既存の権力や体制に反抗し、あるいは反乱を起こす側こそが正義を有するという主張を表します。中華人民共和国の文化大革命期には、「革命無罪」と並んで、紅衛兵と呼ばれる若者たちが熱狂的に掲げた代表的な政治スローガンの一つとして広く知られています。

由来

この言葉の起源は、1939年に中国共産党の革命根拠地であった延安で開催された、ヨシフ・スターリン生誕60年を祝う大会での毛沢東による演説に遡ります。この演説の中で毛沢東は、「マルクス主義の原理は複雑多岐にわたるが、究極的には一つの言葉に集約される。それは『造反有理』である」と述べたとされています。これは、共産主義革命の本質が既存の支配階級に対する反逆にあるという考え方を端的に示したものであり、その後の中国革命の精神的基盤の一つとなりました。

文化大革命における展開

1966年に始まった文化大革命において、「造反有理」は再び脚光を浴びます。毛沢東は、党内の修正主義者やブルジョワ的分子と見なした幹部や知識人を打倒するため、全国の若者たちを「紅衛兵」として組織し動員しました。紅衛兵は、毛沢東思想を唯一絶対の指針とし、「造反有理」のスローガンのもと、学校の教師や大学の教授、地方や中央の党幹部といった目上の者や権威ある者に対して激しい批判や攻撃、すなわち「造反」を繰り広げました。これは、既存の秩序やヒエラルキーを破壊し、毛沢東が理想とする階級闘争を通じた社会変革を推進するための強力な武器となりました。紅衛兵にとって、「造反有理」は彼らのあらゆる過激な行動を正当化する錦の御旗であり、彼らはこの言葉を胸に、旧体制の打破と革命の完遂を目指しました。

日本への波及

「造反有理」の言葉は、国境を越えて日本にも大きな影響を与えました。特に1960年代後半、学生運動が全国各地で激化し、大学が紛争状態に陥った時期に広く知られるようになります。全国学生共同闘争会議（全共闘）をはじめとする日本の新左翼系学生組織は、中国の文化大革命や毛沢東思想に強い関心を寄せ、「造反有理」を彼らの運動のスローガンとして積極的に採用しました。社会主義学生同盟（社学同）や共産主義者同盟（共産同）のマルクス・レーニン主義派（実質的には毛沢東・林彪思想を支持）などがその代表例です。

学生たちは、「造反有理」を掲げ、大学当局や政府、さらには既存の左翼政党に対しても反抗の姿勢を示しました。東京大学の安田講堂事件に象徴されるように、大学構内を占拠したり、機動隊と衝突したりといった急進的な行動が展開される中で、このスローガンは彼らの闘争を鼓舞し、正当化する役割を果たしました。特に東京大学では、正門に毛沢東の巨大な肖像画とともに「造反有理」の標語が掲げられていた時期があるなど、当時の熱狂と混乱を象徴する光景として語り継がれています。日本の新左翼の一部は、この言葉を、体制への抵抗だけでなく、自己の行った暴動やテロリズムといった行為を正当化するための論理としても用いた側面があります。

現代における意味合い

「造反有理」は、歴史的には中国の文化大革命や日本の学生運動といった特定の政治的文脈と強く結びついていますが、現代においては、より広い意味合いで用いられることもあります。本来の社会主義や共産主義といった思想的な背景から離れ、「目上の者や権威ある存在に抵抗したり反抗したりすることには、それなりの正当な理由や根拠がある」といったニュアンスで使われるケースが見られます。これは、権威主義への批判や、弱い立場の者が不当な抑圧に対して声を上げることの正当性を主張する際に引き合いに出されることがあります。

しかし、この言葉が持つ本来の歴史的な重みや、文化大革命期に引き起こされた混乱と暴力の記憶から、使用には注意が必要な場合もあります。単なる反抗の正当化としてではなく、その言葉が生まれた歴史的背景や、過去にこのスローガンがどのような文脈で用いられ、どのような結果をもたらしたのかを理解した上で使用されるべき言葉と言えるでしょう。

関連項目

毛沢東主義
階級闘争
紅衛兵
日本の新左翼
大学紛争
宇井純
愛国無罪
動機至純論

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