過ぎゆく日暦

過ぎゆく日暦

松本清張の著作『過ぎゆく日暦』は、彼の1980年代に記した日記を元にしたエッセイ集です。この作品は、1988年から1989年にかけて『新潮45』で連載され、1990年に新潮社から単行本として刊行されました。日記の内容は、主に1981年、1985年、1986年の記録をもとに、清張自身の解説を付け加えた形で構成されています。擁しているテーマは多岐にわたり、古代史や日本の近代文学に特に焦点が当てられています。

構成とテーマ

『過ぎゆく日暦』は、年代による単純な年表ではなく、さまざまな話題ごとに情報が整理されています。清張の鋭い視点は、当時の社会や文化への洞察を豊かにし、読者に新たな視点を提供します。著者は特に、文芸や歴史、民俗学などの分野で思索を深めており、互いに関連した話題を群で取り上げています。

特徴的なトピック

作品内での主要なトピックとして、まずニューヨークの死体収容所についての考察があります。またあるオランダ人に関するエピソードや、民俗学の衰退といった現代の問題にも言及されています。さらに、イランの拝火神殿趾やモーツァルトのオペラ『魔笛』に関する議論など、古代から近代にわたるさまざまな要素が織り交ぜられています。

著者は文学者としても名高いだけに、特に日本文学に関わるトピックには力を入れています。一葉や緑雨、芥川竜之介、三島由紀夫、中勘助などの作家への言及が多く、彼らの作品や生き様に触れつつ自らの文学観を反映させています。

森鷗外への考察

特に森鷗外に関する記述は興味深い内容を呈しており、彼の創作欲の裏側や彼と乃木将軍との死の対比が語られています。森鷗外の死亡と彼の作品が持つ多様な側面についての考察が、清張の独自の視点で語られ、作品評価に新たな光を当てています。

イギリス紀行

また、イギリス紀行として展開される章では、ヨーロッパの巨石文化やロンドン、シェトランド島の城壁遺跡、さらには「嵐が丘」を訪れた際の印象など、豊富な旅行記が連なります。特に、これらの地における歴史的背景や文化についても詳細に記されており、地理的な視点からも日本文学に対する理解を深める要素が豊かです。

関連作品

この日記中では、清張の他の著作にも言及があり、特に『両像・森鷗外』や『松本清張のケルト紀行』との関連が見受けられます。彼の思考や表現がこれらの作品とともに進化している様子が伺え、松本清張の文学の幅広さを感じることができます。

結論

『過ぎゆく日暦』は、松本清張の日記を基にした独自の視点で日本文学や歴史を掘り下げた作品です。彼の社会に対する深い洞察や観察が、文学や文化に対する理解をさらに深める上で重要な役割を果たしています。この作品を通じて、多様なテーマが探求され、その内容は読む人に新たな考えを促すものといえるでしょう。

もう一度検索