道徳感情論

道徳感情論

『道徳感情論』(The Theory of Moral Sentiments)は、1759年にアダム・スミスによって発表された道徳哲学の著作です。この書物は、私たちの倫理的行動や社会的感情に関する深い理解を促します。スミスは人間の感情や道徳感情がどのように形成され、他者との関係や社会環境によって影響を受けるのかを探求しました。

本書は、道徳心理学や社会心理学の先駆けとも言える内容を含んでおり、人間の「共感」や「想像力」が道徳感情の基盤として働くことを示しています。特に、「適切性」や「是認」、そして「判断力」といった感覚は、私たちが道徳的判断を行う際に重要な要素となります。

構成と内容

『道徳感情論』は、全7部から構成されています。

第1部 - 適切性

第1部では、行為の適切性に関する感覚を論じています。適切性を判断するための基準として、「共感」や「相互共感」、「行為の一致や不一致」が取り上げられ、他者の感情を理解するための方法論が探求されます。

第2部 - 利点と欠点

この部では、利点と欠点、すなわち報奨と罰の対象についての考察が行われます。感謝や憤りといった感情がどのようにして道徳に結びつくのかに焦点を当て、正義や善行についての考え方が示されます。

第3部 - 自己の感情と行動

第3部では、私たち自身の感情や行動に対する判断の基礎を探ります。自己評価や良心、義務感の中心的な役割についての理解が深まります。

第4部 - 効用の影響

効用が是認という感情に与える影響を考察する第4部では、効用の心象が私たちの行動や他者への評価にもつ美に関する議論が行われます。

第5部 - 慣習の影響

第5部は、道徳的感情に対する慣習や流行の影響を掘り下げ、我々の美の観念に対する社会的な影響を考えます。

第6部 - 美徳の特徴

この部では、美徳に関する個人の特徴とその影響について論じ、他者の幸福や個人の自己制御がどのように美徳に繋がるかが明らかになります。

第7部 - 道徳哲学の体系

最後に、第7部では道徳哲学の体系についてまとめ、さまざまな理論や原理の成り立ち、実践的なルールについて探求します。

影響と評価

『道徳感情論』は、スミスのもう一つの著作である『国富論』とも深い関連があり、彼の経済理論や倫理の基盤となる思想を形成しています。彼の道徳哲学は、現在でも哲学や倫理学、社会学の分野で大きな影響を与え続けています。この書は、我々が人間性を理解し、他者との関係を築くための重要な思考の材料を提供しており、感情が倫理に与える役割を考える上で非常に価値のある資料です。

日本語訳

この著作は、複数の翻訳が存在し、多くの人々にその思想を届けています。現代においても、道徳感情に関するスミスの洞察は道徳的議論において重要な位置を占めています。

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