道頓堀 (テレビドラマ)

『道頓堀』（どうとんぼり）

本作は、1968年4月3日から1969年3月26日にかけて、よみうりテレビ制作・日本テレビ系列で毎週水曜日の21時30分から22時26分に放送されたモノクロのテレビドラマシリーズです。全51話が制作・放送されました。

物語の舞台は、明治時代の活気あふれる大阪・道頓堀。このドラマは、単に登場人物たちの人間関係を描くだけでなく、当時の大阪のグルメや流行、巷の話題といった日常の風俗や、道頓堀という町の歴史も織り交ぜながら進行します。これにより、明治期の大阪の息吹やエネルギーが画面を通して伝わってきました。

ドラマの中心となるのは、道頓堀で芝居茶屋を営む人々の複雑な人間模様です。二人の子供を育てながら働くお茶子の「しげ」と、大部屋役者である夫「松之助」の夫婦関係が描かれます。しかし、しげに対して一方的な恋心を抱く芝居茶屋の主人「忠兵衛」が登場し、彼らの間に愛憎劇が繰り広げられます。こうした関係性の軋轢や葛藤が、物語の主要な軸となります。また、彼らの行く末を案じる当時の歌舞伎界の名優、初代鴈治郎（かたおかがんじろう）のような人物も登場し、物語に奥行きを与えています。登場人物たちは、道頓堀という活気ある町の中で、喜び、悲しみ、悩み、欲望といった生々しい感情を露わにしていきます。

人間ドラマと並行して、明治という時代の変化を生き抜く人々の「商魂」も重要なテーマとして描かれます。例えば、後にうなぎ屋「うな勢」を成功させる「美代」、たい焼き屋を始める人物、そして「味の店」を開く「八重」といった個性豊かなキャラクターが登場します。彼らの他にも「六十郎」や「市助」といった面々が、新たな商売に挑戦したり、時代の流れを読み取って事業を拡大したりする姿が描かれます。こうした商売人たちのたくましい生き方や、彼らの奮闘がもたらす成功や挫折は、当時の大阪経済の活力を象徴すると同時に、ドラマにリアリティと躍動感を与えています。

本作は、稀代の脚本家・劇作家として知られる花登筺（はなと はこ）が手掛けたものです。原作は、彼自身が週刊読売に連載していた同名の小説です。特筆すべき点として、この小説の連載とテレビドラマの放送が同時進行で行われていました。花登筺は自ら脚本も担当することで、自身の描いた原作の世界観や登場人物の個性を、テレビドラマという形式にそのまま落とし込むことを可能にしました。彼の独特な筆致や、大阪弁によるリアルな会話劇が、ドラマの大きな魅力の一つとなっています。

スタッフとしては、プロデューサーを矢部章、演出を荻野慶人、音楽を加納光記が担当しました。制作はよみうりテレビです。ドラマのオープニングを飾る主題歌は、坂本スミ子が歌う『道頓堀行進曲』でした。この曲は作詞を日比繁二郎、作曲を塩尻精八が手掛け、ドラマの舞台である道頓堀の雰囲気や、そこに生きる人々の哀愁と活気を表現し、ドラマの世界観を見事に彩りました。

全51話のうち、初期の第1話から第19話までは各話にサブタイトルが付けられていませんでした。しかし、第20話以降は、各エピソードの内容やテーマを示すサブタイトルが付与されるようになります。例えば、「冷血の愛」「窮余の策」「熱湯の愛」「女の執念」「別離」「カフェ誕生」「報復する女」「道頓堀行進曲（第48話）」「水商売の女（最終話）」など、物語の多様な側面を示すタイトルが並びます。これらのサブタイトルは、各話の見どころやテーマを視聴者に伝える役割を果たしました。

テレビドラマ『道頓堀』は、明治時代の大阪・道頓堀を舞台に、登場人物たちの愛憎や葛藤といった人間ドラマ、そして時代の波に乗り新しい商売に挑む人々のエネルギーを力強く描き出した作品です。花登筺の独特な筆致で描かれる人間模様、当時の大阪の風俗や町の歴史の描写が融合し、古き良き大阪の情景と、そこに生きる人々の生命力を鮮烈に映し出しました。約1年間にわたって放送され、多くの視聴者から支持を集めました。

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