遭難 (松本清張)

小説『遭難』の概要

松本清張の小説『遭難』は、1958年から1959年にかけて『週刊朝日』に連載された後、同年に光文社から出版されました。本作は、「黒い画集」シリーズの一作品として知られており、物語は銀行に勤務する3人の登山者が北アルプスの鹿島槍ヶ岳に挑む姿を描いています。作品は、登山中の遭難というテーマに基づいており、彼らが直面する極限の状況を通じて、人間の心理や相互関係が浮き彫りになります。

あらすじ

8月30日、江田昌利、浦橋吾一、岩瀬秀雄の3人は鹿島槍ヶ岳に向かう。山小屋に泊まった翌日、雨が降りしきる中、彼らは遭難してしまいます。江田は救援に向かうものの、過酷な状況の中で岩瀬は体力を消耗し、錯乱状態に陥ります。その結果、岩瀬は黒部渓谷へと転落し、命を落とすことに。物語は、江田が岩瀬の姉の真佐子と従兄の槇田二郎に夕食に呼ばれた際、遭難現場を訪れたいとの申し出を受けるところにまで進展します。

登場人物

本作には、江田、浦橋、岩瀬をはじめとして、周囲の人々が描かれています。彼らの背景や心理描写が丁寧に描かれることで、読者は各キャラクターに感情移入しやすくなっています。

執筆の背景

松本清張はこの作品を執筆するきっかけとして、「山に登る人には悪人がいない」という意見に対する反発を挙げています。プロットを練り上げていく中で、登山家の加藤薫に相談し、鹿島槍ヶ岳の美しい風景を実体験として得ることができました。この山への登山が、松本にとっての大きなインスピレーションとなり、作品のリアリティを高める要素となっています。

記憶に残るトリック

作品に登場するトリックは「プロバビリティーの犯罪」と呼ばれ、このトリックが物語の重要な要素として機能しています。松本は登場人物たちの行動や選択が、状況によってどのように変化するのかを巧みに描写し、読者を引き込む魅力を持っています。

メディア展開

この作品は、1961年に映画化され、タイトルは『黒い画集 ある遭難』です。映画は東宝によって制作され、現在はDVDとしても流通しています。映画版は原作と異なるラストを設定しており、視聴者に新たな視点を提供しています。また、1959年にはテレビドラマとしても放映され、視覚メディアにおける評価も高いです。

まとめ

『遭難』は松本清張の作品の中でも特に影響力があり、高い評価を受けています。事故や遭難という厳しいテーマを扱いながらも、人間の本質や心理を掘り下げたこの物語は、時代を超えて多くの人々に読み継がれています。

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