選択と集中

選択と集中の概念とその実践

選択と集中（せんたくとしゅうちゅう）は、経営学において重要な戦略を指し、限られたリソースや予算を特定の分野やプロジェクトに集中的に投入することを目指しています。このアプローチの目的は、最も効果的な成果を生み出すことにあります。選択と集中の対義語は多角化で、こちらはリソースを広く分散させる戦略です。

経営戦略における選択と集中

この戦略は主に企業の事業再編や政府の政策、さらには科学技術の研究開発において広く取り入れられてきました。選定した特定の領域に投資することで、効率的に成果を上げることが期待されています。ただし、過度な資源集中は問題を引き起こすこともあります。特に、日本国内の科学技術政策においては、研究力の低下や国際競争力の影響が懸念されています。

科学技術政策における歴史的背景

2000年代初頭、日本の科学技術政策でも選択と集中のアプローチが重要視され始めました。2004年から2006年にかけて、小泉純一郎内閣のもとでこの方針が強力に推進されたことがあります。この際、岸本忠三をはじめとする学術界のメンバーが中心となり、選択的な予算配分が行われました。

岸本忠三の提言内容

岸本が提案した代表的なアクションは次の三つです。

1. 予算の集中: 資金を一部の優秀な研究機関や研究者に集中させる方針です。
2. 競争的環境の整備: 研究者の間で健全な競争を促進するための環境を作ること。
3. 任期付き雇用の導入: 任期付きの研究者を増やすことにより、柔軟な雇用環境を実現すること。

このような戦略は短期間で結果を出す意図もあり、2004年当初、国立大学での任期付き研究者は5%でしたが、2014年には44%に達しました。

予算配分の変化とその影響

「選択と集中」による影響は予算配分に明確に現れています。国から国立大学への運営費交付金は2004年から2015年度にかけて一律で1%ずつ減少していき、物価上昇と相まって実質的に大きな影響を受けています。結果として、国全体の研究インフラは厳しい状況に立たされ、光熱費すら賄えない大学も出る始末です。

一方で、特定の研究機関には豊富な資金が流れる一極集中が進みました。特に、世界トップレベル研究拠点プログラムやiPS細胞研究のような大規模な投資が進む中、他の研究機関との格差が広がっています。

特定の研究分野への集中例

• - 世界トップレベル研究拠点プログラム（WPI）:

岸本忠三が関与したこのプログラムでは、ライフサイエンス、特に免疫学分野に集中投資されています。1拠点当たり年間5～20億円の支援を受け、特定の研究が加速される一方で、広い範囲での研究の多様性が損なわれるリスクがあります。

• - iPS細胞研究:

2006年、山中伸弥がiPS細胞を開発。2013年には政府から10年間で1100億円の支援が決定されいましたが、一方でこの多大な投資が他の領域への資金配分の不均衡を引き起こす可能性も指摘されています。

選択と集中の負の側面とその対応

選択と集中方式によって期待された成果が上がらなかった場合、国際的な研究力は著しく弱まってしまいます。このような現状を受けて、日本学術会議は2019年に「第6期科学技術基本計画に向けての提言」を発表し、バランスのある資金配分が必要だと強調しました。

特に、任期制研究者の増加により、キャリアの不安定性が増しているとの報告もあります。やはり特に氷河期世代の研究者は大きな影響を受けており、今後の研究環境の健全性を考える際に欠かせない視点です。選択と集中政策の中で、シニア教授の在職継続も問題視されています。

選択と集中は効率性を追求する一方で、その過剰が新しい研究の芽を摘むリスクがあることを認識しなければなりません。これからの研究開発には、分配の適正化が求められていると言えるでしょう。

もう一度検索