郅都

郅都（しつと）

郅都は前漢の景帝時代に活躍した官吏であり、特にその厳格さから「酷吏」と称されることが多かった。彼にまつわるエピソードは多々存在し、国家の施策や治安において彼が果たした役割は大いに評価されている。しかし、彼の厳しさは同時に恐れられる要因ともなっていた。

略歴

郅都は河東郡楊県（または大陽県）出身で、若いころから高い志を抱いていた。文帝の時代には郎として宮中に仕官し、後に景帝が即位すると中郎将に任命される。彼は自らの考えを貫き通し、朝廷の場においても遠慮せずに意見を述べ、大臣たちをも圧倒することがしばしばであった。

狩りの際の逸話

景帝が狩りに出かけた際、側室の賈姫が危険にさらされた事件があった。野生の猪が彼女の元へ猛進した際、近くにいた郅都は景帝の指示に従わず、思わぬ発言をした。それは「陛下こそが最も大切であり、側室がどうなろうと、まずはご自身の安全が重要だ」と語ったことであった。この言葉が景帝に受け入れられ、結果的に賈姫は無事であったが、その姿勢が郅都を後の重用へと導くこととなった。

悪党への制裁

後に彼は済南郡の有力豪族である瞯氏に苦しめられていた。この豪族は法を無視し、とくに悪質な行為を行っていたが、代々の済南太守たちは手を焼いていた。郅都がその任に当たると、瞬く間に瞯氏の最も悪質な家族を滅ぼし、地域の治安を改善した。人々は彼を恐れ、また尊敬する存在として崇めるようになった。

公正さと信念

郅都は公共の利益を最優先し、私利私欲に絡め取られることはなかった。彼は賄賂を受け取らず、逆境にも屈せず忠誠を尽くす決意を持っていた。自身に対する理念を「私は親に逆らって今の自分がある。だから天子のために死を恐れず、職務を全うするべきである」と述べる彼の姿勢は、周囲にも正義感をもたらす原動力となっていた。

官職の昇進と栄華

紀元前148年、景帝は郅都を中尉に昇進させる。その後、彼は皇族に対する厳しい取り調べを行い、凄絶な手法で権力者に容赦しない姿勢を貫いた。しかし、これが彼のキャリアを高める一方で、彼に対する恨みを生む要因ともなった。彼が指導していた中でも、臨江王劉栄に対する監視が特に印象的で、正義を貫く彼の姿勢が時には、無慈悲なまでの厳格さをもたらすこととなった。

転落と悲劇

しかし、郅都の栄華は長くは続かなかった。臨江王の祖母、竇太后が彼の行動に激怒し、景帝の元で彼を法律違反として免官に追い込む。だが、郅都に対する景帝の信頼は厚く、彼を雁門太守に任命した。しかし、竇太后の強い意向もあり、最終的に郅都は都に呼び出され、市場で処刑される運命を辿った。その後、景帝は彼の死を惜しみ、彼の遺体を故郷に丁重に埋葬する手続きを行った。彼の人生は、厳格さと果敢さがもたらす栄光と悲劇を物語っている。

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