郡村徇行記

郡村徇行記（ぐんそんじゅんこうき）

『郡村徇行記』は、尾張藩の藩士である樋口好古が著した地誌です。一般には『尾張徇行記』という名称で知られ、多くの歴史愛好家や研究者にとって価値ある資料とされています。

概要

樋口好古は尾張藩の農政家として知られ、彼の旅は尾張国内だけでなく、美濃国や近江国の藩領にも及びました。彼は1789年から1822年までの31年間にわたり、各地を巡検し、その記録を残しました。これには村ごとの歴史、隣接する村との境界線、地元の人口、租税の額、寺院や神社の除税地の情報、そして河川や水路、橋梁の状況などが含まれています。

作品の構成

『郡村徇行記』は、次のように構成されており、全39巻からなるとされていますが、現在は一部が失われています。この作品の主な部分は以下の通りです：

• - 那古野府城志：名古屋城下に関する内容で、全3巻。
• - 尾州徇行記：尾張国に焦点を当てた部分で、全26巻。
• - 濃州徇行記：美濃国に関する内容で、全8巻。
• - 捨遺：名所や古跡、古老からの聞き取り情報を含む全2巻。

『尾州徇行記』の巻末には「終」という表記があり、従って全巻数は38巻とも推測されています。現在確認されている現存版は、愛知県庁や名古屋市鶴舞中央図書館、愛知県図書館、名古屋市蓬左文庫などに所蔵されています。興味深いことに、現存する徇行記の中で樋口好古自身の直筆で残っているのは「那古野府城志」の上中下巻の3巻のみとされています。

内容の特性

この作品は情報を詳細に記録することを目的としており、著述としての形式を持つものではありません。そのため、同じ内容の記述がいくつか存在することも確認されています。特に「濃州徇行記」は、寛政年間に編纂され、後に松平君山の著作「濃陽志略」の引用が加えられました。

校訂版の情報

『郡村徇行記』はその価値から何度か校訂され、以下のような版が存在します：

• - 平塚正雄 編『濃州徇行記・濃陽志略』一信社出版部、1937年
• - 『濃州徇行記・濃陽志略』大衆書房、1970年（復刻版）
• - 『濃州徇行記・濃陽志略』大衆書房、1989年（復刻再版）
• - 名古屋市叢書続編『尾張徇行記』 名古屋市教育委員会 編集発行、1964年
• - 名古屋市蓬左文庫『尾張徇行記』 愛知県郷土資料刊行会 発行、1976年（復刻版）

このように、『郡村徇行記』は尾張藩の地理、歴史、文化を知るための貴重な資料として、多くの人々に利用されています。

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