重役候補生No.1

『重役候補生No.1』：昭和レトロなサラリーマン喜劇

1962年、東宝系で公開された古澤憲吾監督作品『重役候補生No.1』は、日本映画史における隠れた名作と言えるでしょう。桃太郎伝説を下敷きにした痛快なサラリーマン喜劇で、モノクロ、東宝スコープ、82分の上映時間ながら、その軽妙な演出とテンポの良い展開は、現代の観客にも十分に楽しめる魅力を持っています。キャッチコピーである「あなたも重役になれる! 痛快! サラリーマン心得帖」は、本作の明るさと前向きさを端的に表していると言えるでしょう。

地方から東京へ、そして重役候補生へ

主人公はシューズメーカー「日の丸ゴム」地方支店勤務の大川桃太郎。彼が考案した新製品「ロケット・シューズ」の大ヒットにより、東京本社の宣伝係長に抜擢されます。桃太郎は持ち前の明るさと行動力で、大胆な宣伝戦略を次々と実行に移していきます。全国の球場に看板を設置し、ホームランを打った選手に高額賞金を贈るなど、型破りなアイデアの数々は、ロケット・シューズの売上を飛躍的に伸ばします。

彼の活躍は、会社のOLである猿田、雉野、そして「ワールド日報」記者の犬山という個性豊かな面々にも人気を集めます。この3人、そして桃太郎は、まるで桃太郎の仲間である犬、猿、雉を思わせる、コミカルなやり取りを繰り広げます。一方で、桃太郎は隣に住む京子という女性に惹かれていきます。

ライバル会社の陰謀と、意外な真実

順風満帆に見えた桃太郎の快進撃も、予期せぬ事態に直面します。ロケット・シューズの欠陥が発覚し、販売店からのキャンセルが殺到、さらに新工場建設にも問題が発生します。これは、商売敵である「鬼ヶ島ゴム」の妨害であると疑った桃太郎と仲間たちは、真相解明に乗り出します。

調査を進める中で、京子が鬼ヶ島ゴムの本社に出入りしているのを目撃。スパイではないかと疑念を抱いた彼らは、犬山が変装して宴会場に潜入し、裏切り者が日の丸ゴムの山下宣伝課長であることを突き止めます。

桃太郎は単身鬼ヶ島ゴムに乗り込み、社長に激昂しますが、そこに現れたのは京子でした。彼女は鬼島社長の娘で、父に反発して家出したことが明らかになります。桃太郎の誠実さに心を動かされた鬼島社長は、彼に娘を嫁にやることを許します。

祝賀会と、新たな出発

数日後、日の丸ゴム創立80周年祝賀会が開かれます。そこで桃太郎は宣伝部長に昇格、「重役候補生No.1」に任命されます。仲間たちも「社長賞」を受賞。桃太郎は京子と共に、祖父母の待つ故郷へと向かうのでした。

スタッフ、キャスト、そして音楽

本作は、古澤憲吾監督をはじめ、安達英三朗（製作）、吉田精弥（脚本）、高島忠夫（主演）、浜美枝、中島そのみ、田村奈巳など、当時の日本映画界を代表するスタッフ、キャストによって制作されました。音楽は神津善行が担当しており、その軽快なサウンドは、映画全体の雰囲気を盛り上げています。

特筆すべきは、本作の主題歌がCD「古澤憲吾ミュージックアンソロジー 日本一のサントラ大作戦」に収録されていることです。映像ソフト化されていない本作ですが、このCDを通して、その音楽を楽しむことができます。

『重役候補生No.1』は、桃太郎伝説を現代風にアレンジした、痛快でユーモラスな作品です。昭和レトロな雰囲気と、軽快なテンポで描かれるサラリーマンの物語は、現代の観客にも新鮮な驚きと感動を与えることでしょう。 当時を知る方々にとっては、懐かしい思い出を呼び起こす作品となるはずです。

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