重忠節

「重忠節」（しげただぶし）

「重忠節」（しげただぶし）は、日本の歌謡界に大きな足跡を残した歌手、三橋美智也によって、1978年に発表されたシングル楽曲です。この曲は、一人の歴史上の人物に焦点を当て、その功績と人となりを歌い上げることを目的として制作されました。

本楽曲で主題とされているのは、鎌倉時代初期に活躍した名将、畠山重忠（はたけやま しげただ）です。重忠は、その類まれなる武勇で知られる一方で、公平無私で清廉潔白な人柄でも高く評価されました。武士たちが模範とすべき人物として、特に坂東（現在の関東地方）においては「坂東武士の鑑（かがみ）」とまで称えられたほどの存在です。「重忠節」は、こうした畠山重忠の武士としての生き様や高潔な精神を称揚する内容となっています。

この楽曲の歌詞は、当時の埼玉県知事を務めていた畑和（はた やわら）によって書かれました。彼は公務の傍ら、「畑やわら」というペンネームを用いて作詞活動を行い、本楽曲を手がけました。畠山重忠は埼玉県深谷市にゆかりの深い人物であり、郷土の英雄を歌にすることで、その功績を後世に伝えたいという知事としての思いが込められていたと考えられます。公職にある人物が、地域の歴史や文化に根ざした楽曲の作詞をペンネームで行ったという点でも、「重忠節」は異色の背景を持つ楽曲と言えるでしょう。

楽曲の作曲および編曲は、細川潤一が担当しました。力強い歌唱で知られる三橋美智也が、歴史上の武将を歌い上げるというテーマ性を表現するために、壮重で風格のあるメロディーとアレンジが施されています。

シングル盤のジャケットデザインも、この楽曲の背景を物語る要素を含んでいます。表面には、畠山重忠ゆかりの地である埼玉県深谷市畠山地区を流れる荒川の美しい夕景写真が採用されています。その情景は、重忠が生きた時代の自然を思わせるかのようです。そして、その風景写真の左上には、作詞者である畑和、つまり「畑やわら」氏の肖像写真が配されています。これは、楽曲が単に歴史上の人物を扱っているだけでなく、作詞者である当時の知事の深い思い入れやメッセージが込められていることを視覚的に伝えるデザインと言えるでしょう。

「重忠節」は、シングルとして発表され、そのB面（カップリング曲）には「秩父音頭」が収録されています。「秩父音頭」は、同じく埼玉県内の秩父地方に古くから伝わる、代表的な民謡の一つであり、多くの人々に親しまれています。郷土の英雄を歌ったA面曲と、埼玉県の伝統的な民謡であるB面曲という構成は、このシングル全体が埼玉県という地域に根ざした文化や歴史を大切にする姿勢を示していると言えます。叙情歌や民謡の歌唱にも定評があった三橋美智也が、こうしたテーマのシングルをリリースしたことは、彼の音楽活動の一環としても自然な流れであったと考えられます。

「重忠節」は、単なる流行歌という枠を超え、特定の歴史的人物やその背景、そして作詞者である公職者の郷土への深い思いが結びついた、文化的意義も持つ楽曲として捉えられます。三橋美智也の力強い歌声によって、畠山重忠という武将の存在と彼にまつわる物語が、広く人々に伝えられた貴重な一例と言えるでしょう。

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