重森完途

重森 完途

重森 完途（しげもり かんと、1923年5月19日 - 1992年12月31日）は、日本の造園界において、作庭家、造園家、造園史家、そして庭園研究家として多大な功績を残した人物です。特に、近代庭園の革新者として知られる重森三玲の長男としても知られ、その名前はドイツの哲学者イマヌエル・カントに由来しています。京都府京都市に生まれた完途は、父の仕事を受け継ぎながらも、独自の視点から日本の庭園芸術を探求しました。

学業においては、1943年に早稲田大学文学部国文科を卒業。その後、兵役に服した経験を持ちます。終戦を迎えた1945年からは、父である重森三玲の研究所に入り、庭園に関する本格的な研究活動を開始しました。父の下で基礎を固めた後、1955年には独立し、自身の「重森完途庭園設計研究所」を設立。これにより、作庭家としての設計活動を本格的にスタートさせます。以来、生涯にわたり、数多くの庭園を手がけることになります。

設計活動と並行して、教育や研究の分野でも積極的に活動しました。1958年からは芝浦工業大学で講師を務め、後進の指導にもあたっています。また、京都林泉協会会長を務めるなど、研究者、文化人としての顔も持ち合わせ、日本の庭園文化の振興に寄与しました。1966年には外務省の文化使節としてオセアニア地域に派遣され、日本の庭園文化を海外に紹介する役割も担いました。彼の家庭はまさに庭師の系譜であり、息子である重森千青もまた作庭家として、京都工芸繊維大学の講師として活躍しています。

重森完途が手がけた主な作品には、以下のようなものがあります。

長安寺大方丈前 薬師三尊四十九燈の庭
ホテル宍道湖庭園（1973年）
島根県庁庭園
山口義男氏邸庭園（東京都田無市）
島根県立中央病院庭園
松尾大社蓬莱の庭（1975年）
財団法人佐藤博物館庭園（長野県、1978年）
出雲市立図書館庭園（1984年）

これらの作品は、彼の作庭思想や技術を示すものとして、現在も多くの人々に親しまれています。特に、歴史的な寺院から公共施設、個人邸宅まで、幅広い場所でその才能を発揮しました。

また、庭園研究家としての功績も特筆すべき点です。多くの著書を執筆し、日本の庭園史や庭園の美学に関する深い洞察を示しました。代表的な著書としては、父・重森三玲と共に編纂した『日本庭園史大系』（全35巻）や『飛鳥・奈良・平安の庭』といった記念碑的な研究書があります。これらの著作は、日本の庭園研究における基礎資料として、今日でも極めて重要視されています。その他にも、庭園の鑑賞法、茶庭、蹲踞など、特定のテーマに焦点を当てた専門書や、一般向けの解説書など、多岐にわたる出版物を手がけています。

『日本庭園史大系』全35巻（重森三玲と共著）
『飛鳥・奈良・平安の庭』（重森三玲と共著、大橋治三撮影）社会思想社
『庭の美しさ』現代教養文庫228 社会思想研究会出版部（1960年）
『蹲踞』（編著）毎日新聞社（1984年）
『作庭と鑑賞』淡交社（1983年）
『日本の庭園芸術』1-3（編著）理工図書（1957年）
『日本の庭 -作庭編- 続』毎日新聞社（1983年）
『茶室と露地』（中村昌生と共著）世界文化社
『京都・壺庭』（写真：水野克比古）光村推古書院
『庭園歴史散歩』平凡社（1987年）
* 『日本庭園の思惟 生成と鑑賞の美学』日貿出版社（1970年）

重森完途は、作庭家としての創造活動に加え、造園史家・研究家としての学術的貢献、そして教育者としての後進育成と、多角的な視点から日本の庭園文化の継承と発展に寄与しました。父・三玲が築いた革新的な流れを受け継ぎつつ、自身の研究と実践を通して、日本の庭園芸術の奥深さを後世に伝え続けた人物と言えるでしょう。

もう一度検索