野ゆき山ゆき海べゆき

映画『野ゆき山ゆき海べゆき』の概要

『野ゆき山ゆき海べゆき』は1986年に日本テレビ放送網やアート・シアター・ギルド、バップの三社によって制作された映画です。この作品は、戦争の影響を受けた小さな港町で繰り広げられる子供たちの物語を描いており、原作は詩人佐藤春夫の詩「少年の日」からタイトルが取られています。また、1986年のキネマ旬報読者選出ベストテンで10位にランクインするなど、評価を受けた作品でもあります。

あらすじ

物語は太平洋戦争の最中、瀬戸内海の港町を舞台にしています。小学校に通う子供たちは、無邪気にも「わんぱく戦争」と称して遊んでいます。その中で、お調子者の須藤総太郎は、美しい転校生お昌ちゃんに恋をします。しかし、お昌ちゃんには山で木を切り出している筏乗りの早見勇太という恋人がいます。

お昌ちゃんの家庭事情は複雑で、父親は飲酒に溺れ、借金のかたに彼女を女郎屋に売ろうとしていることが発覚します。小学生たちは、母親から売られた娘たちを奪還しようと奮闘しますが、彼女たちにはもはや帰る家はなく、女郎屋に行くことが生きる術となります。ついに、お昌ちゃんを救ったのは勇太でしたが、彼は軍隊に召集され逃亡してまで港に駆けつけた結果、悲劇的な結末を迎えます。

スタッフとキャスト

映画は大林宣彦が監督を務め、彼の独自の演出スタイルが光る作品になっています。脚本は山田信夫が担当し、相手の言葉を深く受け止め、感情を表現することを重視しました。キャストには、初主演となった鷲尾いさ子が美しいお昌ちゃんを演じ、須藤総太郎役には林泰文がキャスティングされました。

制作の背景

本作は、若い世代に向けたメッセージを発信することを目的としており、大林監督が青春を追体験するかのような視点から製作されています。スタッフは、実際の演技ではなくセリフそのものに焦点を当てることで、観客に想像力を駆使させる意図がありました。それにより、演技が持つ感動だけでなく、言葉による伝達の重要性を強調しています。

音楽と映像

音楽は大林監督自身が考案した曲が用いられ、主要登場人物は場面ごとに主題曲を持って、それを歌うスタイルが採用されていました。また、本作はモノクロ版とカラー版が同時に公開されるという独特のアプローチも取られています。モノクロ版は静寂の中に深い絶望感を織り込み、カラー版は色彩豊かに人間ドラマを描き出しています。

作品の評価と影響

この映画は、子供たちの目を通して見える戦争の brutal な側面を表現しており、観客に問いかける作品として評価されています。何よりも、その詩的な映像と、キャラクターが直面する困難は観る人々に感慨深い体験を提供します。戦争というテーマをフレームに、純粋な感情を大切にすることへのメッセージが、本作の真髄です。

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