野口薫 (心理学者)

野口 薫

野口 薫（のぐち かおる、1935年2月12日 - 2006年7月25日）は、日本の著名な心理学者であり、特にゲシュタルト心理学、交通心理学、そして芸術心理学といった多岐にわたる分野で研究を展開しました。千葉大学においては長年にわたり教育・研究に貢献し、退官後には名誉教授の称号が贈られています。

生涯とキャリアの軌跡

野口氏のキャリアは、愛知県で生まれ育った後、学問の道に進むことから始まりました。1957年に千葉大学文理学部の人文科学課程、中でも心理学を専攻して卒業し、さらに研鑽を積むため東京都立大学（現・首都大学東京の前身の一つ）の大学院へ進学しました。1960年には同大学院人文科学研究科の修士課程を心理学専攻で修了しています。この初期の学びが、その後の多様な研究活動の基礎を築いたと言えるでしょう。

大学院修了の翌年、1961年より母校である千葉大学に戻り、文理学部の助手として教壇に立つことになりました。教育者としてのキャリアをスタートさせた野口氏は、着実に研究と教育の両面で実績を積み重ねていきます。1966年には同学部の講師に昇任し、同年には国外での研究活動にも積極的に取り組み、カナダのヨーク大学大学院でリサーチ・アソシエイトとして研究に携わりました。国際的な視野を広げた経験は、その後の研究に大きな影響を与えたと考えられます。

千葉大学でのキャリアは続き、1968年には教養部の助教授となり、教育と研究の中心的な役割を担うようになります。そして1979年には同教養部の教授へと昇進し、心理学分野のリーダーとして多くの学生や研究者を指導しました。

1980年には、研究活動の幅をさらに広げるべく、ドイツのミュンヘン大学に訪問研究員として滞在し、さらにイタリアのトリエステ大学では客員教授を務めるなど、再び国際的な舞台で活躍しました。これらの経験は、氏の専門分野における知見を深め、その後の研究に新たな視点をもたらしたことでしょう。

1990年代に入ると、野口氏のキャリアには新たな変化が訪れます。1994年には千葉大学の工学部に配置転換となり、心理学の知見を工学分野に応用する可能性を探るなど、異分野間の連携にも関心を示しました。そして1999年に千葉大学を退官し、長年の功績を称えられ名誉教授の称号が贈られました。しかし、教育・研究への情熱は衰えることなく、同年からは日本大学文理学部の教授として新たな環境で教鞭を執り、2005年に定年を迎えるまで精力的に活動を続けました。

専門分野と著作

野口氏の専門分野は、ゲシュタルト心理学、交通心理学、芸術心理学と多岐にわたります。ゲシュタルト心理学は知覚や認知の全体性に着目する分野であり、その知識は交通心理学における人間の行動分析や、芸術心理学における美意識や感性の理解に応用されたと考えられます。氏の唯一の単著として知られる『美と感性の心理学―ゲシュタルト知覚の新しい地平』（日本大学文理学部、2007年）は、芸術心理学とゲシュタルト知覚に対する深い洞察を示すものであり、氏の研究の一端をうかがい知ることができます。

晩年

2005年に日本大学を定年退職した後、野口氏は学術的な探求を続けたものと思われます。しかし、残念ながら2006年7月25日、肺癌のため71歳でその生涯を終えました。長年にわたり日本の心理学界に貢献した野口薫氏の功績は、今後も語り継がれることでしょう。

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