野水重明

野水 重明（のみず しげあき）は、1965年生まれの日本の実業家です。現在は株式会社ツインバードの代表取締役社長を務めています。ものづくりの町として知られる新潟県燕三条地域に生まれ育ち、家業であるツインバードを率いて、新たな時代への挑戦を続けています。

幼少期から家業に触れる

野水氏は、ツインバード工業の前社長である野水重勝氏の長男として、金属加工関連の事業者が2000社以上集まる「日本で一番社長が多いまち」燕三条で誕生しました。幼い頃から、スプーンの袋詰めといった簡単な作業を通じて、家業に自然と触れていました。学生時代は中学、高校とサッカー部に所属し、特に高校時代はキャプテンを務めました。激しい練習の傍ら、夏場には炎天下での練習後に実家での立ち仕事を手伝うなど、幼い頃から働くことの厳しさを体感していました。

多様な経験を積む

新潟県立三条高等学校を卒業後、1989年に工学院大学を卒業し、ツインバード工業に入社。その後のキャリアパスは多岐にわたります。入社してすぐ、大手都市銀行へ約3年間出向し、製造業とは異なる金融業界での経験を積みました。1993年には長岡技術科学大学大学院へ進学し、工学研究科情報制御工学で博士号を取得。技術に対する深い探求心も持ち合わせています。大学院修了後はツインバードの香港事務所に勤務し、国際的なビジネスの現場で経験を積んだ後、2003年に本社へ帰任しました。その後は営業副本部長として東京支店に赴任し、2009年には経営企画室長、2010年には専務と、要職を歴任しました。

社長就任と経営改革

2011年、父である野水重勝氏の後を継ぎ、代表取締役社長に就任。当時、ツインバードは赤字を経験しており、経営改革の必要性を痛感していました。社長就任にあたり、野水氏はカリスマ経営者だった父に対し、代表権を自分一人に任せてほしいと直談判したというエピソードは有名です。父は一時的な葛藤を見せたものの、最終的には「俺もずっと生きられるわけじゃない。お前に任せる」と息子に託す決断をしました。野水氏は後に、「必死の思いで育ててきた会社を人の手に委ねた父の潔さを思うと、私はまだ彼の足下にも及んでいないと思う」と述懐しています。

多品種少量生産への転換と成長戦略

社長に就任した野水氏が特に注力したのが、多品種少量生産への転換です。経済が成熟し、モノが豊富になるにつれて、消費者のニーズは画一的な「必要なモノ」から、「自分のライフスタイルや価値観に合ったモノ」へと細分化します。野水氏は、この変化に対応し、「健康志向」や「時間を節約したい」といった個別のニーズに応える製品開発の重要性を提唱しました。この戦略転換が功を奏し、ツインバードは再び成長軌道に乗ることに成功します。

具体的な成長戦略として、2014年を「ブランディング元年」と位置づけ、ブランドイメージの向上に努めました。2015年には情報発信拠点として東京都内に「ツインバード日本橋ゲートオフィス」を開設し、顧客との接点を強化。2016年にはプレミアム家電ブランド「マインツ」を立ち上げるなど、高付加価値製品の開発にも積極的に取り組みました。また、「ブランパン対応ホームベーカリー」や、頭部マッサージ器「セレブリフト」、360度回転するユニークな扇風機「ピルエット」といった「オンリーワン製品」の開発を主導しました。ツインバードが持つスターリングクーラー技術は、2011年にJAXAからの依頼を受け、宇宙実験用の超精密な温度管理が可能な冷凍冷蔵庫として開発され、現在も国際宇宙ステーションで使用されるなど、最先端分野でもその技術力が活かされています。

人物像とメディア露出

野水氏は、読書、クラシック鑑賞、旅行を趣味とし、座右の銘には「共創」を掲げています。これは、社内外の協力者や顧客との連携を通じて新たな価値を生み出すという、同氏の経営哲学を表しています。これらの取り組みはメディアからも注目を集め、テレビ東京の『日経スペシャル カンブリア宮殿』（2017年）など、多くのテレビ番組に出演し、ツインバードのユニークな事業や経営戦略について語りました。また、2022年には、ツインバードの歴史や自身が取り組んだ経営改革について記した著書『ツインバードのものづくり』を出版しています。

野水重明氏は、燕三条で培われたものづくりの精神を受け継ぎながら、時代の変化を捉えた独自の経営戦略と革新的な製品開発により、ツインバードを再成長に導いた実業家です。故郷の伝統を守りつつ、技術とアイデアで未来を切り拓いています。

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