野澤宏

野澤 宏

野澤 宏（のざわ ひろし）氏は、1942年5月17日生まれの日本の実業家です。特に、日本の大手IT企業である富士ソフト株式会社の創業者としてその名を知られ、長年にわたり同社の経営トップとして陣頭指揮を執りました。

生い立ちとキャリアの出発点

野澤氏は、1942年に東京都世田谷区に生まれました。幼少期は、電気店を営む家庭で育ちました。神奈川県立平塚江南高等学校を卒業後、1966年に東京電機大学工学部電子工学科で専門知識を修得します。

大学を卒業した野澤氏は、社会人としてのキャリアをスタートさせるため、大明電話工業株式会社（現在のミライト株式会社）に入社しました。しかし、組織に属して働くというスタイルが、自身の性格や理想とする働き方に合わないと感じ、「肌が合わない」という感覚を抱いたとされています。この経験が、その後の独立へと繋がる重要な転機となります。

会社勤めに限界を感じた野澤氏は、教育の道へと進路を変更します。1967年には日本電子工学院（現在の日本工学院専門学校）の電子計算部で講師を務めることになりました。教育現場で自身の知識や技術を伝える経験は、後の企業経営にも影響を与えたかもしれません。

富士ソフトの設立と成長

教育者として働く傍ら、自身の理想とする事業の構想を温めていた野澤氏は、ついに独立を決意します。1970年、横浜市左近山団地の自宅マンションの一室を拠点として、「富士ソフトウエア研究所」（現在の富士ソフト株式会社）を設立しました。創業当時は、現在の巨大企業からは想像できないほど小さな規模でのスタートでした。

設立と同時に取締役として経営に参画した野澤氏は、会社を成長させるべく尽力します。そして、設立からわずか3年後の1973年には、代表取締役社長に就任し、名実ともに経営のトップとしてリーダーシップを発揮することになります。

野澤氏のリーダーシップの下、富士ソフトは日本の高度経済成長期と情報化社会の波に乗り、順調に事業を拡大していきました。技術力と経営戦略が実を結び、設立から約28年を経た1998年には、企業経営における大きな目標の一つである東京証券取引所市場第一部への上場を果たしました。これは、創業時の小さな研究所が、日本の主要なソフトウェア開発会社へと成長したことを示す重要な節目でした。

役職の変遷と経営への関与

上場後も、野澤氏は会社の経営に深く関与し続けました。2001年には代表取締役会長に就任し、より広範な視点から会社の方向性を見守る立場となります。しかし、必要に応じて再び現場の指揮を執ることもあり、2004年には代表取締役会長兼社長として再び社長職を兼任しました。その後、2008年に再び代表取締役会長となり、2009年には会長職に専念します。

時代の変化とともに組織体制も変革され、2011年には会長執行役員となります。そして、2012年には再び代表取締役会長執行役員として、会社の最高責任者としての役割を担いました。

長年にわたり、代表取締役として会社の設立、成長、そして発展を牽引してきた野澤氏は、経営の第一線から徐々に退く準備を進めます。2020年3月には取締役会長執行役員となり、翌2021年4月には取締役相談役として、自身の豊富な経験と知識を会社に提供する立場へと変わりました。そして、長きにわたる富士ソフトでのキャリアを締めくくり、2023年3月をもって取締役相談役を退任しました。

自宅の一室からスタートしたソフトウェア開発会社を、東証一部上場企業へと育て上げた野澤宏氏の歩みは、まさに日本の実業家としての類まれな功績と言えるでしょう。自身の「肌に合わない」と感じた経験をバネに独立し、情熱と実行力で企業を成長させたその軌跡は、多くの起業家やビジネスパーソンにとって、大きなインスピレーションとなるものです。

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