野澤屋

横浜の老舗百貨店「野澤屋」：栄光と衰退、そして歴史的建造物の終焉

1864年（元治元年）、横浜弁天通に創業した「野澤屋呉服店」。その歴史は、生糸輸出で名を馳せた野澤屋庄三郎の時代まで遡ります。初代茂木惣兵衛によって始められた呉服店は、二代目の茂木保平の時代に金融や不動産、生糸製造など多角経営へ拡大し、横浜を代表する財閥へと成長しました。

1910年（明治43年）、伊勢佐木町にショーウィンドウのある支店を開設。座売り形式から陳列式へと転換し、百貨店スタイルを取り入れました。当初は呉服が中心でしたが、独自のプライベートブランド「野澤紬」や、流行を取り入れた商品展開で、三越や高島屋に匹敵する一流店として高い評価を得ました。

しかし、第一次世界大戦後の反動恐慌により、茂木家は経営破綻。1921年（大正10年）、松坂屋などの出資を受け、株式会社野澤屋呉服店として再出発しました。関東大震災による被害を乗り越え、鉄筋コンクリート造の新館を建設。外国人デザイナーを招き、オリジナル商品や独自のサービス展開で、モボ・モガの時代を象徴する横浜を代表する百貨店へと成長を遂げました。

第二次世界大戦中は売場の供出、戦後は米軍接収と、百貨店としての営業は困難を極めました。戦後、横浜駅西口への進出を断念したことが、後にライバルである横浜高島屋の台頭を招く大きな転換点となりました。

1960年（昭和35年）東京証券取引所に上場。しかし、横浜高島屋などとの競争激化により業績は低迷。1974年（昭和49年）、松坂屋の傘下に入り、「ノザワ松坂屋」に改称しました。その後も増床や西館建設などで競争に挑み続けましたが、累積赤字を解消できず、2008年（平成20年）10月26日、惜しまれつつも閉店しました。

野澤屋は、地元のプロ野球チーム「横浜大洋ホエールズ」「横浜ベイスターズ」を長年応援。フォークソングデュオ「ゆず」が無名時代に店頭で路上ライブを行っていたことでも知られています。

1921年建築の本館は、アールデコ様式の装飾が施された名建築として、横浜市認定歴史的建造物にも認定されていました。しかし、閉店後、老朽化や経済状況などの理由から解体。助成金の返還を経て、認定は解除されました。跡地には新たな商業施設が建設されました。

野澤屋の閉店は、伊勢佐木町商店街に大きな打撃を与えました。しかし、その歴史と文化遺産としての価値は、多くの人々の記憶に刻まれています。野澤屋は、横浜の歴史と発展を語る上で欠かせない存在であり続けました。

野澤屋と横浜：時代を彩った百貨店

野澤屋は単なる百貨店ではありませんでした。それは、横浜の街と共に歩み、時代の変遷を映し出した鏡のような存在でした。開港後の横浜で発展し、日本の近代化を象徴する建築物として、そして地域の文化を支える存在として、野澤屋は独自の地位を築き上げてきました。

その歴史は、日本の経済発展と社会変動を物語る、貴重なアーカイブと言えるでしょう。栄枯盛衰を経て、その姿は消えましたが、野澤屋が残した歴史的建造物や文化的な遺産は、人々の記憶の中で生き続けています。そして、その歴史は、未来の横浜の街づくりに、重要な教訓を与え続けるでしょう。

主な出来事一覧

1864年：野澤屋呉服店創業
1910年：百貨店スタイルの支店開設
1921年：株式会社野澤屋呉服店設立
1923年：関東大震災
1974年：松坂屋傘下に入り「ノザワ松坂屋」に改称
1977年：松屋横浜店撤退、西館増床
2008年：百貨店営業終了、閉店
2009年：本館解体、歴史的建造物認定解除
* 2012年：跡地に新たな商業施設「カトレヤプラザ伊勢佐木」開業

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