野火止用水

野火止用水（のびどめようすい）

野火止用水は、東京都立川市の玉川上水から分水し、埼玉県新座市を通り、新河岸川（志木市）へと続く全長約24kmの用水路です。別名「伊豆殿堀（いずどのぼり）」とも呼ばれます。

開削の背景

江戸時代初期、武蔵野台地は関東ローム層に覆われた乾燥地帯であり、生活用水の確保が困難でした。江戸幕府は、この状況を改善するため、玉川上水を建設し、その後、川越藩主の松平信綱が、領内への分水を計画しました。承応4年（1655年）、信綱は家臣の安松金右衛門と小畠助左衛門に命じ、わずか40日間で野火止用水を開削しました。この用水は、玉川上水から7割、野火止用水に3割の割合で分水され、主に飲料水や生活用水、後に農業用水として利用されるようになりました。



野火止用水の開削に伴い、川越藩は農民や家臣を入植させ、大規模な新田開発を進めました。人々は、生活が豊かになったことを松平信綱に感謝し、彼の官途名である「伊豆守」にちなんで、野火止用水を「伊豆殿堀」と呼ぶようになりました。新座市の小学校の校歌にも「伊豆堀」の歌詞が歌い継がれていることからも、地域住民の生活に深く根付いていることがわかります。

水利用と水争い

野火止用水は、開削当初から生活用水や農業用水として重要な役割を果たしてきましたが、戦後、水不足や水質悪化といった問題にも直面しました。昭和22年（1947年）には、降水量不足で用水の流量が低下し、上流と下流の農民間で水争いが起きました。地域での交渉も決裂し、深刻な対立へと発展しました。

水質劣化と改善

戦後、生活様式の変化とともに、野火止用水には生活排水が流入するようになり、水質は著しく悪化しました。特に昭和38年（1963年）以降、周辺の宅地化が急速に進んだため、水質汚染は深刻化しました。昭和48年（1973年）には、東京都の水事情悪化により、玉川上水からの取水が停止され、用水路の暗渠化が進みました。



しかし、埼玉県や新座市は、野火止用水の文化的価値を重視し、「野火止用水復原対策基本計画」を策定しました。用水路のしゅんせつや流末処理対策を実施し、水質の改善に努めました。東京都も昭和49年（1974年）に野火止用水を歴史環境保全地域に指定し、下水処理水を利用した「清流復活事業」により、昭和59年（1984年）に水流が復活しました。現在では、流域住民による清掃活動も活発に行われ、憩いの場として親しまれています。

流域の自治体

野火止用水は、以下の自治体を流れています。

東京都：立川市、小平市、東大和市、東村山市、東久留米市、清瀬市
埼玉県：新座市、朝霞市、志木市

橋梁

野火止用水には、多くの橋が架かっています。以下は、玉川上水からの主な橋梁の一覧です。

清巌院橋、青梅橋、野火止橋（乃びどめ橋）、ふれあい橋、東野火止橋、どんぐり橋、ほのぼの橋、さいわい橋、こなら橋、土橋、富士見橋、第二富士見橋、中宿橋、人道橋、天王橋、野火止橋、野火止橋、栄町横断歩道橋、第一恩多橋、第二恩多橋、第三恩多橋、第四恩多橋、稲荷橋、学校橋、中橋、万年橋、雁橋、菊水橋、石橋、界橋、ぐみの木橋、押出し橋、松原橋、野火止橋、桁橋、野火止水路橋（関越自動車道に架かる水路橋）、本多橋、御成橋、向橋、隈屋敷橋、伊豆殿橋、西分橋、山下通橋、山下橋、野火止用水緑道橋

脚注

『高等小學讀本. 卷1』教科書に紹介された野火止用水

外部リンク

『高等小學讀本. 卷1』教科書に紹介された野火止用水

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