野狐

野狐：日本の妖怪における狐の姿

日本の妖怪「野狐（やこ）」は、多様な解釈を持つ存在です。一般的なキツネ、人を化かす妖狐、神格を持たない狐など、様々な狐が野狐の範疇に含まれます。古くは「野犴（やかん）」や「野狗（やこ・やく）」、「野狛（やこ）」といった表記も見られ、いずれも犬科の動物を指す漢字が用いられています。

人を惑わす妖狐

野狐は、しばしば人を化かす存在として描かれます。16世紀頃の『人国記』には、大阪府の信太明神に多くの野狐がいて、人々を惑わせたと記されています。妖狐の伝承の多くは、この野狐に該当すると考えられますが、日常会話では「キツネ」と呼ばれることが一般的で、「野狐」という表現は、神格を持つ狐などとの対比を強調する場合に用いられる傾向があります。

野狐の階級

江戸時代には、野狐は狐社会における最下層の存在と見なされることもありました。皆川淇園『有斐斎箚記』には、狐の階級が天狐、空狐、気狐、野狐の順に記されており、野狐は最も低い階級とされています。また、『宮川舎漫筆』には、狐を善狐と野狐の二種類に分け、善狐は人に善行を行い、野狐は悪行を行うと記述されています。これらの記述からも、「野狐」という分類は、他のタイプの狐と区別するために用いられたことが分かります。

野狐憑き：信仰と病

九州地方では、キツネ憑きを「野狐憑き（やこつき）」と呼びます。憑依する野狐は、明確な神格を持たない狐とされ、その姿は伝承によって多少異なりますが、管狐やオサキといった他の妖怪と類似点を持ちます。黒や白、ネズミより大きくネコより小さい、あるいは目に見えないなど、様々な描写があります。長崎県平戸市周辺では、「ヤコの千匹連れ」という言葉があるように、多くの野狐が群れをなして歩くとも伝えられています。

野狐憑きの症状は、病気と似た状態が現れるとされ、壱岐島では「ヤコオ」と呼ばれ、イタチに似た姿で人の脇の下に潜むとされています。ヤコオに火傷や疱瘡の跡を舐められると死に至るとの言い伝えがあり、疱瘡患者は蚊帳や麻殻の灰、刀剣などでヤコオを寄せ付けないようにしていました。南九州では、家系に野狐が憑依し、代々受け継がれるとされ、牛馬に憑依することもあるとされています。また、野狐を操って他人に憑依させるという伝承も存在します。

まとめ

野狐は、日本の妖怪における狐の多様な側面を表す存在です。単なる動物としてのキツネから、人を惑わす妖狐、そして憑き物として人々の生活に影響を与える存在まで、その姿は時代や地域によって多様な解釈を受けてきました。これらの伝承は、人々が狐に対して抱いてきた複雑な感情や、自然に対する畏敬の念を反映していると言えるでしょう。

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