野球害毒論

野球害毒論の背景と展開

野球害毒論（やきゅうがいどくろん）は、1911年に『東京朝日新聞』が主導して展開した野球に対する批判的なキャンペーンです。この論評は「野球有害論」とも呼ばれ、主に野球が教育や社会に与える悪影響を指摘したものでした。

提起された問題

当時、野球は学生の人気スポーツとして広まり、高校や大学間での試合が盛況でした。しかし、その人気の背後には様々な問題が隠れていました。野球を巡る熱狂は、選手たちが学業をおろそかにしたり、無理を重ねて試合に挑む原因となっていました。選手たちが抱えるストレスや負担は増大し、精神的な健康にも懸念が生じるようになったのです。

記事の構成と批判者たち

『東京朝日新聞』が連載した「野球とその害毒」では、著名人の意見を多数取り上げ、野球の弊害について広く報じました。例えば、第一高等学校校長の新渡戸稲造は、「野球は賤技」として批判し、その性質を非難しました。彼は野球が持つ運動の特性に対し「運動の作法に暗し」とも述べ、社会的な価値観との不調和を指摘しました。

また、府立一中の校長川田正澂も、学生が野球に夢中になることで学業の時間を浪費し、身体の負担を強いると警鐘を鳴らしました。さらに、文部省の関係者も野球の影響を懸念し、特に選手制度や観戦文化が学生生活に与える影響を重視しました。

野球人気とその反響

一方で、こうした批判は土台となる野球人気の拡大に逆行するものでした。1906年には早慶戦が行われ、試合に対する熱狂は非常に高く、その影響で選手たちの行動も問題視され始めました。多くの応援団が熱心にサポートする一方で、応援行為がエスカレートし、時には暴力的な事件も発生していました。こうした状況が「野球とその害毒」を生む原因の一つとなったのです。

競争を招いた新聞業界

この時期、新聞業界では競争も激化しており、特に大阪毎日新聞の東京進出が影響を与えました。『東京朝日新聞』は、ライバル紙に対抗する形で野球批判を展開し、自身の立場を確立しようとしました。しかし、このネガティブキャンペーンの結果は期待されたほどにはならず、むしろ野球に対する支持が高まることになりました。

最後に

「野球害毒論」が展開されたにもかかわらず、野球人気は続き、物議を呼ぶ結果となりました。他の新聞も野球を擁護する論調を強化し、様々な反論が巻き起こりました。時の経過と共に、野球は教育現場における重要な活動として位置づけられ、1915年には全国中等学校野球大会が設立されることになります。この流れは、野球の教育的意義が認められる契機となり、国民的なスポーツとしての地位を得る一因となったのです。

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