野球選手が夢だった。

KANの5作目のオリジナルアルバムとして、『野球選手が夢だった。』は1990年7月25日に世に送り出されました。

本作は、収録曲の中からシングルカットされた「愛は勝つ」が、その後の長い期間にわたり多くのリスナーに支持されるロングヒットを記録したことを契機に、アルバム自体の売り上げを大きく伸ばすこととなりました。その結果、翌年の1991年度には日本の年間アルバムチャートで17位にランクインする成功を収めています。

アルバム制作初期のレコーディングにおいては、まずアレンジャーとして佐藤準が迎え入れられ、「青春国道202」と「それでもふられてしまう男」の2曲の録音作業が進められました。しかし、KANが楽曲のために準備したデモテープに収められたアレンジのリズムパターンと、佐藤準氏が実際に行ったアレンジが大きく異なっていることに、KANは強い不満を表明しました。「これは自分が意図した音楽ではない」と主張し、録音スタジオから立ち去ろうとする一幕もあるなど、両者の間では大きな意見の衝突が生じ、制作現場は混乱しました。

このような厳しい経験を経て、その後のレコーディングセッションではアレンジャーを交代するという判断がなされました。そして、新たに小林信吾が共同アレンジャーとしてチームに加わることになります。この出会いは、KANのその後の音楽活動において非常に重要な転換点となりました。小林信吾は、本作に続いて発表された12枚目のアルバム『KREMLINMAN』に至るまでの長期間にわたり、KANが最も厚い信頼を寄せる音楽パートナーとして、彼の生み出す楽曲の大部分においてアレンジを担当することになります。

また、アルバムの顔となるジャケット写真の撮影は、多摩川の河川敷、具体的には東急田園都市線の二子玉川駅近くにある野球広場で行われました。このジャケット写真の表紙にどのカットを採用するかを決める際にも、KAN自身の希望とプロデューサー側の考えが対立し、大きな議論となりました。しかし、アルバムの発売期日が目前に迫っており、これ以上時間をかけることが難しかったため、最終的にはKANが自らの意見を譲る形で決着しました。なお、KAN自身が当初強く推していた写真は、アルバムのブックレットの裏表紙に収められています。

このように、『野球選手が夢だった。』は、収録曲の歴史的なヒットだけでなく、制作過程における様々なエピソードを経て完成した、KANのキャリアにおいて特筆すべき作品の一つと言えます。

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