金の鎖をつけた騎士

『金の鎖をつけた騎士』

『金の鎖をつけた騎士』（El caballero de la cadena de oro）は、イタリア・ルネサンスのヴェネツィア派を代表する画家、ティントレットによって描かれた油彩画です。制作年は特定されていませんが、プラド美術館では1555年頃の作品としています。この作品は、ティントレットの肖像画の中でも傑出した一つとされ、プラド美術館に所蔵されている彼の他の肖像画と比較しても、その完成度の高さは群を抜いています。

作品の来歴

この絵画は、17世紀にスペインの画家ディエゴ・ベラスケスがイタリア滞在中に購入した可能性が高いとされています。1666年には、マドリードの旧王宮の目録にその存在が記録されました。当初は長方形の作品でしたが、1700年から1732年の間に楕円形に加工された時期がありました。しかし、1732年の目録には再び長方形に戻った状態で記載されています。

作品の特徴

描かれている人物が誰であるかは、確かな記録が残っていません。かつてはヴェネツィア派の巨匠ヴェロネーゼや、彫刻家レオーネ・レオーニであるという説もありましたが、現在ではヴェネツィア貴族出身の政治家であり作家でもあったニコロ・ゼーノであるという説が有力視されています。

この作品は、ティントレットが1550年代以降に展開した「動きのある肖像」の典型例です。身体をわずかに捻ったり、顔の向きを変えることで、動きを表現しています。1540年代後半の静的な肖像画や、1560年代以降の身振り手振りの大きな肖像画と比較すると、この時期の肖像画はより洗練された表現へと変化しています。

背景は何も描かれておらず、左側からの強い光によって、鑑賞者の視線は自然と人物の表情に集中します。モデルは老人ではありませんが、禿げ上がった頭、目の周りの深い皺、白くなり始めた髭などから、年齢が感じられます。顔の皮膚の緻密な筆致は、髪の毛の軽やかで大まかな筆致と対照的です。手の描写も非常に緻密で、筋肉や血管がはっきりと見て取れます。

画面全体は暗い色調でまとめられていますが、白いシャツと黄金の鎖が効果的な光のアクセントとなっています。黄金の鎖、質素ながらも高価な衣服、そして人物の落ち着いた立ち居振る舞いが、彼の社会的地位を暗示しています。

参考文献

『プラド美術館ガイドブック』、プラド美術館、2012年刊行　ISBN 978-84-8480-353-9
Romano, E. (dir), Los Grandes Genios del Arte, tomo 28, Tintoretto, Unidad Editorial, 2005, Madrid, España. ISBN 84-96507-04-1.

外部リンク

* プラド美術館公式サイト、ティントレット『金の鎖をつけた騎士』 (英語)

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