釣手土器

釣手土器とは

釣手土器は、縄文時代に製作された土器の一種で、浅い鉢のような形状をしており、口縁部に把手（とって）が取り付けられているのが特徴です。この把手は、吊り下げるためのものではなく、装飾的な意味合いが強いと考えられています。釣手土器は、主に中部地方の高地から関東地方にかけて多く出土しており、北陸地方でも見られます。その独特な形状から、通常の生活用具ではなく、祭祀や儀式に使われた特別な土器と考えられています。

形態と特徴

釣手土器は、深鉢形の土器や注口土器とは異なり、浅鉢形である点が特徴です。把手の形状は多様で、橋状、十字形、三叉状、バスケット状などがあります。把手の頂点は、ほぼ中心部に位置しており、イノシシやヘビなどの動物文様や人面装飾が施されているものもあります。また、口縁部には小さな孔が開けられていたり、胴体に鍔状の隆帯が付いているものも多く、これらは同じく祭祀用途と考えられている有孔鍔付土器と共通の特徴です。

歴史

釣手土器は、縄文時代前期後半以降に現れ始め、縄文中期には、蛇身文様や顔面装飾が施されたものが作られるようになります。これらの装飾は、勝坂式土器に始まり、曽利式、加曽利式、咲畑式、醍醐式と変遷していきます。後期初頭には一時的に消滅しますが、東北地方では華麗な装飾が施されて発展していきます。1924年（大正13年）に鳥居龍蔵が「釣手ある土器」として紹介したのが、釣手土器の研究の始まりです。その後、八幡一郎、藤森栄一、宮城孝之らによって形態分類が行われ、八幡は把手を弓状のものと三方から中央に集まるものに分け、藤森は三窓式、天蓋式、二窓式、把手式の4分類を提唱しました。

用途に関する考察

釣手土器の用途については、様々な説があります。把手に磨耗跡がないことや、懸垂用の孔が開けられている例があることから、何らかのものを吊り下げて使用していたと考えられます。また、内面にすす状の炭化物や黒色変化が見られる出土例があることから、内部で火を燃やしていた可能性も指摘されています。初期の研究では、篝火台や灯火器として使われていたと考えられていましたが、宮城孝之は祭祀に関係する土器であるとしました。藤森栄一は、農耕社会と関連した呪術具としての意味があったと推測しています。

神話学的解釈

神話学的なアプローチから釣手土器の用途を解釈する研究もあります。縄文中期には、土偶や人面装飾付土器など女神信仰が見られます。神話学者の吉田敦彦は、人面装飾付の釣手土器を、胎内に火の神（カグツチ）を宿し、母体を焼かれる女神（イザナミ）を表現していると解釈しました。また、日本神話の源流を縄文文化に求める小林公明や田中基も同様の推測を行っています。これらの神話学的アプローチを受け、考古学者の渡辺誠らは、釣手土器や有孔鍔付土器に見られる動物文様の意味についても考察を進めています。これらの研究から、釣手土器は単なる道具ではなく、当時の人々の精神世界や信仰を反映した特別な土器であったと考えられています。

まとめ

釣手土器は、縄文時代の人々が祭祀や儀式のために用いたと考えられています。その独特な形状や装飾は、当時の人々の精神世界や信仰を反映しており、縄文文化を理解する上で重要な資料となっています。今後の研究によって、釣手土器の更なる解明が進むことが期待されます。

参考文献

井口直司「釣手土器」『縄文時代研究辞典』
新津健「縄文中期釣手土器考-山梨県内出土例からみた分類と使用痕-」『山梨県史研究第7号』

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