鈴木日出男

鈴木日出男：古代日本文学研究の巨匠

鈴木日出男(1938年-2013年)は、日本の国文学を代表する学者の一人です。東京大学名誉教授として、古代日本文学、特に『源氏物語』研究において多大な貢献を果たしました。その業績は、没後もなお高い評価を受けており、日本の国文学研究史に大きな足跡を残しています。

青森から東大へ：学究の道の歩み

青森県青森市に生まれた鈴木氏は、東京学芸大学国語学科を卒業後、東京大学大学院に進学し、国文科博士課程を修了しました。その後、東京学芸大学助教授、成城大学教授、東京大学教授、成蹊大学教授と、日本の名門大学で教鞭を執り、多くの学生を指導しました。その間、1991年には『古代和歌史論』で角川源義賞を受賞し、翌年には同書で東京大学文学博士の学位を取得するなど、早くからその学識の高さを示しました。

1999年に東京大学を定年退官後も、成蹊大学教授、図書館長を歴任し、さらに二松学舎大学特別任用教授や法政大学大学院非常勤講師として、教育・研究活動を続けました。角川源義賞選考委員も務め、後進の育成にも尽力しました。

物語虚構論：『源氏物語』への新たな視座

鈴木氏の研究は、『源氏物語』への深い洞察に特徴があります。氏は『源氏物語』を単なる物語としてではなく、物語という虚構を通じて真実を描く複雑な構造を持つ作品として捉え、独自の視点から解釈しました。その研究成果は、東大退官後に発表された大著『源氏物語虚構論』(全54章)に集大成されています。この著作は、物語の構造、登場人物の心理、作者の意図など多角的に分析し、『源氏物語』研究に新たな地平を開いたと高く評価されています。

多彩な著作：分かりやすい解説で知られる

鈴木氏は、『源氏物語』のみならず、古代和歌や万葉集など、幅広い分野を研究対象としていました。その研究成果は多数の著書に結実しており、『源氏物語歳時記』『古代和歌史論』『百人一首』『はじめての源氏物語』など、初心者にも理解しやすい入門書から、専門性の高い研究論文まで、多様な著作を残しています。これらの著作は、専門家のみならず、広く一般読者にも親しまれ、古代日本文学への関心を高める上で大きな役割を果たしました。

以下に、鈴木氏の主な著書を列挙します。

著書

『源氏物語歳時記』(筑摩書房)
『古代和歌史論』(東京大学出版会)
『百人一首』(ちくま文庫)
『はじめての源氏物語』(講談社現代新書)
『光源氏の世界』(放送大学)
『源氏物語の文章表現』(至文堂)
『源氏物語への道』(小学館)
『清少納言と紫式部 王朝女流文学の世界』(放送大学)
『古代和歌の世界』(ちくま新書)
『王の歌 古代歌謡論』(筑摩書房)
『万葉集入門』(岩波ジュニア新書)
『源氏物語虚構論』(東京大学出版会)
『高校生のための古文キーワード100』(ちくま新書)
『えんぴつで脳を鍛える源氏物語』(宝島社)
『書いて味わう百人一首—雅びの世界を旅する』(PHP研究所)
『知識ゼロからの源氏物語』(幻冬舎)
『連想の文体　王朝文学史序説』(岩波書店)

編著

『源氏物語の時空 王朝文学新考』(笠間書院)
『源氏物語ハンドブック』(三省堂)
『文学史上の「源氏物語」』(至文堂)
『人物造型からみた「源氏物語」』(至文堂)
『ことばが拓く古代文学史』(笠間書院)
『平安朝の文学』(放送大学)
『全訳全解古語辞典』(文英堂)
『日本の古典 古代編』(放送大学)
『王朝文化辞典 万葉から江戸まで』(朝倉書店)

没後も続く影響

2013年10月3日、腹膜炎のため75歳で逝去されました。しかし、その研究は多くの後進の研究者たちに受け継がれ、現在もなお、日本の古代文学研究に大きな影響を与え続けています。鈴木日出男氏の功績は、これからも日本の国文学研究の礎として輝き続けることでしょう。

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