銀行狐

銀行を舞台にした5つのミステリー短編集『銀行狐』

池井戸潤による経済小説ミステリー短編集『銀行狐』は、1998年から2001年にかけて雑誌に掲載された5つの短編をまとめた作品です。破綻寸前の銀行、窓口でのトラブル、脅迫事件、そして連続殺人事件など、銀行を舞台に繰り広げられる様々な事件が、それぞれの登場人物の視点からリアルに描かれています。

短編集を構成する5つの物語

1. 金庫室の死体:
閉鎖された城南相和銀行の金庫室で、バラバラに損壊された老婆の遺体が発見されます。刑事である小松与一と花山寛は、不可解な死の真相を追い詰めていきます。事件の背景には、銀行の不正や隠された秘密が潜んでいることを暗示します。

2. 現金その場限り:
東都銀行の窓口で、連続してマイナス収支が発生するトラブルが発生します。係長の灰原は、行員による横領を疑い、真相究明に乗り出します。しかし、事件の裏には、思わぬ人物の思惑が隠されていることが明らかになっていきます。

3. 口座相違:
東都銀行渋谷支店で、顧客の振込口座が取り違えられるという重大なミスが発生。課長の萬田は送金先に連絡を取ろうとするものの、事態は思わぬ方向へと展開していきます。一見単純なミスに見える事件の裏に潜む、巧妙な策略や陰謀が徐々に明らかになっていきます。

4. 銀行狐:
帝都銀行の頭取宛に、「狐」と署名された脅迫状が届きます。その後、顧客情報漏洩や系列生保社員への襲撃事件が発生。総務部企画グループ特命担当の指宿修平は、事件の背後に潜む影を追いかけます。この物語は、池井戸潤の別作品『銀行総務特命』にも登場する登場人物が登場する点が特徴的です。

5. ローンカウンター:
連続婦女暴行殺人事件を捜査する刑事・山北史朗は、ある事情から二都銀行でローンを組むことになります。そこで出会った融資課長代理の伊木遥との出会いをきっかけに、事件の新たな手がかりが得られることに。この物語は、池井戸潤の小説デビュー作『果つる底なき』の主人公である伊木遥が登場する点が興味深い点です。

多彩な登場人物

それぞれの短編には、個性豊かな登場人物が登場します。銀行員、刑事、そして事件に巻き込まれる一般市民など、様々な立場の人々が複雑に絡み合い、物語に深みを与えています。特に、『銀行総務特命』、『果つる底なき』といった池井戸潤作品に登場するキャラクターが再登場する点も、ファンにとって大きな魅力でしょう。

テレビドラマ化や漫画化

『銀行狐』は、2002年にテレビ朝日系の「土曜ワイド劇場」で、2015年には日本テレビ系の「水曜ドラマ」枠でテレビドラマ化されました。また、2014年から2015年には『花咲舞が黙ってない』というタイトルで漫画化もされています。これらのメディアミックス展開からも、本作の人気の高さがうかがえます。

まとめ

『銀行狐』は、銀行という閉鎖的な空間を舞台に、人間の業や社会の闇を描き出した、奥深く魅力的なミステリー短編集です。それぞれの短編は独立して読むことができますが、全体を通して銀行という世界における様々な問題や葛藤が描かれており、一気読みしたくなるような構成となっています。池井戸潤作品ファンはもちろん、ミステリー小説が好きな方にもおすすめの一冊です。

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