錠口

錠口（じょうぐち）

錠口とは、江戸時代において、将軍や大名などの邸宅で、表（おもて）と奥（おく）という、居住空間を区切る廊下に設けられた出入り口のことです。この出入口は、単なる通路ではなく、屋敷の内部における権威と秩序を象徴する重要な場所でした。

錠口の構造と役割

錠口は、邸宅の奥深くに位置する居住空間へのアクセスを制限する役割を担っていました。特に、将軍や大名のプライベートな空間である奥への出入りは厳しく管理され、錠口は、その管理を象徴する存在でした。

錠口には、「上の御錠口（かみのごじょうぐち）」と「下の御錠口（しものごじょうぐち）」がありました。上の御錠口は、表と奥の境界にある廊下に設けられ、定刻になると内と外から大きな錠が下ろされました。この錠口には鈴が取り付けられており、「お鈴の口（おすずのくち）」とも呼ばれていました。一方、下の御錠口は、奥の玄関に設けられ、上の御錠口とは区別されていました。

錠口は、単に空間を区切るだけでなく、屋敷内の人々が、それぞれの役割と権限を認識させるための場所でもありました。表と奥の間で連絡が必要な場合は、奥からは老女の使番が、表からは小姓が上の御錠口まで来て用件を処理しました。これにより、各々の場所の担当者が、むやみに他の場所に立ち入ることを防いでいました。

錠口を通行できる人物

錠口を通過できる人物は厳しく制限されていました。表から奥へ入ることが許されていたのは、留守居（るすい）、奥家老（おくがろう）、年男（としおとこ）のみでした。しかも、これらの役職には老人が任命されるのが通例でした。これは、奥への出入りを制限し、屋敷の秩序を維持するためでした。

江戸城の錠口

江戸城の錠口は、2間（約3.6メートル）の幅があり、黒塗りの縁を持つ杉戸が立てられていました。杉戸には、「是より男子入るべからず」と記された紙札が掲示されており、男子の立ち入りを厳しく禁じていました。戸は、朝の五ツ時（午前8時頃）から暮れの六ツ時（午後6時頃）まで半開きにされていましたが、六ツ時には閉じられました。しかし、これは単に杉戸の両扉を合わせただけで、自由に開閉することができました。そのため、御広敷（おひろしき）側には伊賀者や添番（そえばん）の詰所が、奥側には御錠口番や御使番の詰所が設けられ、寝ずの番で警護されていました。

まとめ

錠口は、単なる出入り口ではなく、将軍や大名屋敷の内部における権威と秩序を象徴する重要な場所でした。厳重な管理体制の下、限られた人物しか通行できず、屋敷内の人々の役割と権限を明確にする役割を担っていました。錠口の構造や運用方法から、当時の社会における身分制度や権力構造を読み解くことができます。

もう一度検索