錦城斎典山 (3代目)

三代目 錦城斎 典山

三代目 錦城斎 典山（きんじょうさい てんざん）は、江戸から明治、そして昭和初期にかけて活動した講談界の重鎮です。元治元年（1864年）2月7日に生を受け、昭和10年（1935年）1月7日にその生涯を閉じるまで、講談師として数多くの高座を務め、後進の育成にも尽力しました。本名を青山 嶽次郎といいます。

講談への道と修業時代

青山嶽次郎、後の三代目錦城斎典山は、元治元年（1864年）、江戸の神田多町に、父である青山善蔵の子として生まれました。幼い頃から講談に触れる機会があったかは定かではありませんが、彼が講談師を志すきっかけとなったのは、14歳を迎えた頃のことです。当時の著名な講談師であった三代目一龍斎貞山が口演する「曽我物語」を聞き、その物語の世界観や貞山の話術に深く感銘を受けたといいます。この感銘が、彼の人生を講談一筋に進む原動力となりました。

感銘を受けた青山嶽次郎は、迷うことなく三代目一龍斎貞山の門を叩き、弟子入りを果たします。修業を始めた彼は、まず「二代目一龍斎貞花」という名跡を名乗ることから芸歴をスタートさせました。師である貞山の下で研鑽を積み、講談師としての基礎を築き上げていきます。

芸名の変遷と名跡の継承

一龍斎貞花として経験を積んだ後、彼は「二代目一龍斎貞丈」と名を改めます。そして、芸が円熟期に入り、講談界での地位を確立しつつあった明治23年（1890年）、師から受け継ぐべき重要な名跡である「五代目一龍斎貞山」を襲名しました。一龍斎貞山の名跡は、講談界において権威あるものであり、その五代目を継いだことは、彼が講談界の中心的な存在となったことを示しています。

五代目貞山として長らく高座を務め、名声を得ていましたが、明治40年（1907年）、彼は大きな決断をします。一龍斎貞山の名跡を、四代目一龍斎貞山の弟子であった三代目一龍斎貞丈に譲ることを決めました。そして、自身は新たに「三代目錦城斎典山」という名跡を襲名したのです。これは、講談界における名跡の継承と、自身の新たな芸風・地位を確立する上での重要な転換点となりました。

門弟と家族

三代目錦城斎典山は、講談師としての活動のみならず、後進の育成にも大変熱心でした。彼の門下からは、多くの講談師が育っています。確認されているだけでも、一龍斎貞昌、一龍斎貞国、一龍斎貞輔（本名：中山 惣吉）、一龍斎貞海、一龍斎貞寿、一龍斎貞洲、一龍斎貞徳（本名：岩崎 喜代太郎）、一龍斎貞八、一龍斎貞鶴、一龍斎貞斎、一龍斎貞三、一龍斎貞観、一龍斎貞秀、一龍斎貞生、一龍斎貞凌、昇龍斎清麟、一龍斎貞信、玉木蕃山、昇龍斎丈海といった面々が名を連ねています。特に六代目一龍斎貞山や四代目昇龍斎貞丈といった、後に重要な名跡を継承する人物も彼の門下から輩出されています。

家族としては、母が竹本越花という人物であり、次男には二代目花柳壽楽がいます。花柳壽楽は日本舞踊家であり、父とは異なる分野で活躍しましたが、偉大な親を持つ点では共通していました。

晩年

三代目錦城斎典山として、彼は晩年まで講談の高座に立ち続け、その話術で多くの人々を魅了しました。昭和10年（1935年）1月7日に70歳で逝去するまで、彼は講談界の発展に貢献し、その芸と精神は多くの門弟たちによって受け継がれていきました。彼の生涯は、講談という伝統話芸に捧げられたものであり、その功績は今なお講談史に刻まれています。

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