鍵のかかった部屋 (貴志祐介)

『鍵のかかった部屋』：詳細解説

『鍵のかかった部屋』は、作家貴志祐介による人気推理小説シリーズ『防犯探偵・榎本シリーズ』の第3作目です。2008年から2011年にかけて雑誌『野性時代』（のちに『小説野性時代』に改題）に掲載された4つの短編をまとめた作品で、2011年に書籍化、同年4月には文庫版も発売されました。

本作の特徴は、何よりも物理的トリックの精密さです。登場人物の心理描写や行動も丹念に描かれていますが、ミステリの核心となるのは、物理法則に則った、巧妙で現実的な密室トリックです。著者は、トリックの物理的可能性を検証し、非現実的な要素を排除することで、読者に高度な謎解きの楽しさを提供しています。

この作品は、2012年にはテレビドラマとしても放映され、高い視聴率を獲得しました。さらに、朗読劇としても舞台化され、多くの読者・観客を魅了しています。これらのメディアミックス展開は、本作の人気を改めて示すものと言えるでしょう。

各章の概要

1. 佇む男
この章では、山荘で発見された葬儀会社社長の遺体が、一見自殺に見せかけられた密室状況にあることから事件が始まります。司法書士の日下部からの依頼を受け、榎本と純子は、事件の真相解明に乗り出します。遺体の状況や証言から、自殺に見せかけた他殺である可能性が浮上しますが、物理的に不可能と思える状況に、榎本は「次元の違う発想」を求められます。

主な登場人物:
日下部雅友：喧嘩っ早い司法書士。純粋な正義感から事件の真相解明に奔走する。
池端誠一：葬儀会社専務。社長の後継者候補だったが、横領の疑いがかけられる。
田代芙美子：葬儀会社事務員。社長に長年仕えてきた古参社員。
大石満寿男：葬儀会社社長。末期の癌を患っていた。
松田大輝：遺体発見前に山荘内で大石の姿を目撃した少年。

2. 鍵のかかれた部屋
刑期を終えた元泥棒の会田は、姉の息子が密室で自殺したとされる現場に遭遇します。内側から鍵がかけられ、窓やドアは厳重に封鎖されていたにもかかわらず、会田は自殺に疑問を抱き、榎本と純子に事件の再調査を依頼します。榎本は、継父の高澤が犯人だと確信し、密室トリックの解明に挑みます。

主な登場人物:
会田愛一郎：元泥棒。サムターン回しを得意とする。「アイアイの中指」という独自の技を持つ。
高澤芳男：会田の姉の再婚相手。中学校の理科教師。手品が趣味。
高澤美樹：会田の姪。兄の死の真相を突き止めようとする。

3. 歪んだ箱
高校教師の杉崎は、欠陥住宅をめぐるトラブルから工務店社長の竹本を殺害し、それを事故に見せかけようとします。しかし、地震による不可解な状況と、警察の捜査によって、杉崎の計画は徐々に綻び始めます。榎本は、一見不可能な密室状況を解き明かそうとします。

主な登場人物:
杉崎俊二：高校教師。過去の暴力事件の前科を持つ。
竹本袈裟男：工務店社長。欠陥住宅を建てた張本人。
* 飯倉加奈：杉崎の婚約者。高校教師。

4. 密室劇場
劇団の舞台公演中に、前座の俳優が密室状態で殺害されます。榎本と純子は、観客や売店、舞台装置といった状況下で、犯人を特定し、30分以内に自首をさせるという挑戦をします。

主な登場人物：多数の劇団員が登場し、それぞれ個性的なキャラクターが事件に複雑に関わっています。

まとめ

『鍵のかかった部屋』は、緻密なトリックと、それを取り巻く人間模様が見事に描かれた本格ミステリです。それぞれの短編は独立した物語として楽しむことができますが、全体を通して、防犯探偵・榎本の卓越した推理力と、純子の冷静な分析力、そして個性豊かな登場人物たちが織りなすドラマが、読者に深い満足感を与えてくれます。物理的トリックの緻密さだけでなく、登場人物たちの心理描写にも秀でており、読み応えのある作品と言えるでしょう。それぞれの密室トリックは、読者に驚きと感動を与え、推理小説の醍醐味を存分に味わうことができるでしょう。

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