長岡鉄男

長岡鉄男は、1926年1月5日に東京府で生まれ、2000年5月29日に74歳で亡くなった日本のオーディオ評論家です。本名を富岡寿一といい、放送作家からオーディオ評論家へと転身しました。

人物像

長岡鉄男は、その辛口な評論と独特なユーモアセンスで知られていました。メーカーに媚びることなく、コストパフォーマンスを重視した製品評価は多くのオーディオファンから支持されました。また、自作スピーカーの設計記事や、外盤を中心としたソフト紹介も人気を集め、生涯で600種類ものスピーカーを設計したと言われています。レコード、CD、LDのコレクションは総計5万枚にも及びました。晩年には、自宅に「方舟」と名付けたホームシアタールームを建設し話題となりました。アンティークカメラの収集も趣味としていました。

生涯

長岡は東京市赤坂区で生まれました。幼少期から喘息を患い、軍国主義になじめなかったと述懐しています。旧制中学校卒業後、高等学校の受験に失敗し、徴兵を逃れるため航空工学校に入学。終戦後は、コントの台本やクイズ番組の問題を作成する傍ら、真空管ラジオを自作したり、カメラや時計を収集していました。1957年、初めてハイファイオーディオシステムを購入し、音楽之友社の雑誌に記事を執筆するようになりました。1959年に結婚し、新居を構えましたが、オーディオシステムの肥大化に伴い、埼玉県草加市、そして1971年に埼玉県越谷市へと転居しました。越谷は、新幹線が走っておらず電波に悪影響がないという理由で選ばれました。1980年にはマトリックススピーカーMX-1を発表、1986年にはバックロードホーン型スピーカー「スワン」を発表し、大評判となりました。1987年にはホームシアター用の建物「方舟」を建設し、評論活動の場としました。

評価

長岡鉄男は、オーディオ評論家としては異例の人気を誇り、その死後も関連書籍が出版され続けています。彼の人気は、単なるオーディオ機器の評論だけでなく、自作スピーカーの提案、外盤の紹介、時事コラムなど、多岐にわたる魅力によるものでした。熱狂的なファンは「長岡教徒」と呼ばれ、彼の推奨する機器やディスクを買い揃えたり、「方舟」のコピーを建てる者まで現れました。

一方で、長岡の自作スピーカーに関しては、アンチも多く存在しました。特にバックロードホーン型のスピーカーは好みが分かれ、熱烈な支持者がいる一方で、酷評する人も少なくありませんでした。

自作スピーカー

長岡の自作スピーカー記事は、設計の意図や工作過程、測定結果が中心で、音質に関する欠点にはあまり触れられませんでした。この姿勢を「自画自賛」と評する人もいましたが、長岡自身は「自作の強みは万人向けである必要がない」と述べています。また、長岡が設計したスピーカーは数百機種に及び、初心者向けから実験的なものまで多岐にわたりました。バックロードホーン型スピーカーの設計に注力したのは、オーディオ業界における「バックロードホーンは音が悪い」という通念に挑戦するためでした。

長岡は、1987年に建設した「方舟」では、縦長の共鳴管方式スピーカー「ネッシー」をメインシステムとして使用しましたが、オーディオ機器のテストには、スワン型バックロードホーンを愛用していました。長岡は、スワンが「実力差に比例した鳴り方になる」ため、テストに最適であると述べています。

また、長岡はダブルバスレフ方式のスピーカーも設計しましたが、これらは読者向け記事で紹介されるにとどまり、自身は使用しませんでした。メーカー製スピーカーに対抗するようなスピーカーを設計することもあり、必ずしもメーカーが作らない方式にこだわっていたわけではありません。

主な著書・連載

長岡鉄男は、数多くの著書を出版しており、オーディオファンから長く支持されています。主な著書には、『ステレオの実際知識』、『マイ・ステレオ作戦』、『長岡鉄男のステレオハンドブック』、『長岡鉄男の傑作スピーカー工作』シリーズなどがあります。また、雑誌連載も多数行っており、「FMfan」、「週刊FM」、「STEREO」、「AV REVIEW」などでコラムや評論記事を執筆していました。

長岡鉄男は、その独自の視点と情熱で、オーディオの世界に大きな足跡を残しました。彼の著作や設計したスピーカーは、今も多くのオーディオファンに愛され続けています。

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