長江 (映画)

長江の探求—さだまさしの初監督作品

1981年に公開されたドキュメンタリー映画『長江』は、シンガーソングライター・さだまさしの監督デビュー作です。この映画は、さだの家族が青春を過ごした中国を舞台に、長江の流れに沿った街や人々、そしてその歴史に焦点を当てています。長江の美しさや人々の生活を映し出すことを通じて、さだの「大陸への憧れ」を実現した作品でもあります。

さだはこの映画の制作のために、当初は莫大な印税収入を背景に資金を用意しました。大陸に対する憧れから「長江の最初の一滴が見たい」との思いから撮影に着手した影響もありました。1980年には、さだと中国中央電視台の共同制作により、長江に沿った撮影が始まりました。

目を見張るのは、特に当時の「シルクロード・中国ブーム」の影響を受けて、同作は120館で上映されるという異例の大ヒットを記録した点です。観客動員数も好評を博しましたが、制作費の高騰などさまざまな要因から、最終的には赤字になってしまいました。映画評論家からは「ヒット歌手の道楽」との辛辣な評価もありましたが、さだにとっては重要な経験となりました。

撮影自体は当初テレビ用のビデオカメラで始まりましたが、映像のクオリティを保つために途中からは35ミリ映画フイルムに変更されました。長江の源流撮影も計画されましたが、当時の中国当局の規制により困難を極め、企画からの大幅な予算超過が生じました。最終的にはさだは約28億円の融資を受け、返済金額は約35億円に達しました。

映画制作の影響は、さだのその後のキャリアにも色濃く反映されました。負債返済のため、彼は年間100回以上のコンサートを行うことになり、その結果、歌唱だけでなくトークセッションなど多彩な魅力を持つスタイルへと進化しました。2013年には日本武道館で通算4000回目のコンサートを達成し、その際に約30年に及ぶ借金を完済したことを明らかにしました。

さだが撮影した長江流域の人々や風景は、文化や生活の変遷を映し出す貴重な記録として位置付けられています。撮影行程は約3200kmに及び、フィルムの長さは約113万フィートとされています。この素晴らしい映像資料は、長江流域に暮らす人々の姿を収めた世界初の記録でもあります。

また、本作の撮影中には、さだは中国で初めてのソロコンサートを行ない、歴史的な瞬間を経験しました。共同制作を行った中国中央電視台は、『長江』の映像に独自取材を加え、連続ドキュメンタリー番組『话说长江（話説長江）』を放送しました。この番組は、中国の視聴者に長江の全貌を初めて紹介し、高い視聴率を得ることとなりました。

『長江』は、さだまさしにとって重要な作品であり、彼の音楽活動を新たなステージへと導く転機ともなったのです。

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