長濱善夫

長濱善夫は、1915年に神奈川県に生まれ、日本の医学、特に眼科と東洋医学の発展に大きく貢献した人物です。1940年に千葉医科大学を卒業後、同大学の眼科教室に入り、伊藤弥恵治教授の指導の下で研究活動を始めました。特に東洋医学研究室では、古典医学の探求に力を注ぎました。

1947年には、藤平健らとともに千葉医科大学の公認課外講座として「東洋医学自由講座」を設立しました。この講座は、当時の医学界ではまだ少数派であった東洋医学を学ぶ場として、多くの学生や医師に影響を与えました。さらに、1950年には日本東洋医学会の創設に際し、学会準備委員会の委員として中心的な役割を果たし、東洋医学の学術的な発展に貢献しました。

長濱の研究において特筆すべきは、鍼治療における現象の科学的な解明です。1949年春、視神経萎縮を患い、鍼の刺激に非常に敏感な患者との出会いが、彼の研究の大きな転換点となりました。この経験をきっかけに、彼は鍼の刺激が人体に及ぼす影響、特に「鍼響」の研究に深く取り組みました。その結果、古典医学の文献に記された経絡の走行を実証的に確認する一方、古典には記載されていない新たな経絡を発見するという画期的な成果を挙げました。また、鍼刺激によって生じる「循経感伝現象」、すなわち刺激が経絡に沿って伝播する現象も発見しました。

これらの発見は、東洋医学のメカニズムを科学的に解明する上で重要な足がかりとなりました。長濱は、従来の西洋医学的な視点だけでなく、東洋医学の理論と臨床経験を組み合わせることで、鍼灸治療の新たな可能性を開拓したと言えるでしょう。

長濱は、研究活動だけでなく、診療所を開設して患者の治療にもあたりました。東京都港区西新橋芝田村町に診療所を構え、多くの患者を治療しましたが、1961年に脳卒中のため、46歳という若さで急逝しました。

著書として、『東洋医学概説』（1961年、創元社）や『針灸治療の新研究』（創元社）などがあり、彼の研究成果は、これらの著書を通して後世に受け継がれています。長濱善夫の業績は、東洋医学の科学的な発展に大きく貢献し、現代の鍼灸治療にもその影響が見られます。

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