関係車両186台による多重事故

1992年 3月17日、北海道の道央自動車道で発生した大規模な多重追突事故は、日本の自動車史に残る惨事となりました。この事故は、恵庭ICと千歳IC間の上り線で発生し、186台もの車両が巻き込まれるという、国内最大級の規模となりました。

事故の概要

事故は午前8時45分頃、長都川橋付近で始まりました。発端は、ライトバンが大型バスを追い越そうとした際に、バスの後部に接触したことでした。バスはすぐに路肩に停止しましたが、ライトバンはそのまま走り去ってしまいました。この小さな接触事故の後、数台の車両は問題なく通過しましたが、その後方で大型トラック、乗用車、ライトバン3台が絡む追突事故が発生しました。

さらに後続の車両が次々と事故に巻き込まれ、最終的には大型タンクローリーと大型バスが道路を塞ぐ形となり、後続車が衝突を繰り返すという連鎖的な事故となりました。最終的に、普通乗用車95台、大型トラック11台、大型バス8台、普通貨物車71台、軽自動車1台、合計186台の車両が折り重なるようにして巻き込まれ、事故の先頭から最後尾までの距離は約1.2kmにも及ぶ大規模なものとなりました。

事故発生前の状況として、北海道警察高速隊は現場区間の除雪作業が終了した直後の午前7時43分時点で、「小雪が舞う程度で無風状態、路面は良好」と報告し、制限速度を50kmから80kmに引き上げていました。しかし、事故発生時には、現場付近は小雪が降り、場所によっては地吹雪が発生しており、路面は2〜3cmの圧雪状態でした。先行車両が巻き上げる雪煙により、視界が著しく悪化するホワイトアウト状態となっていたことが、事故を拡大させた要因の一つと考えられます。気象レーダーの解析では、事故当時、局地的に100mm/h相当の激しい降雪があったことが確認されています。

救助活動

事故発生後、午前9時13分に恵庭市消防本部、9時22分に千歳市消防本部に救急要請が入り、9時25分には恵庭市の救急車が、9時34分には千歳市の救急車が現場に到着し、救助活動を開始しました。その後、両消防本部は増援を要請し、指揮車や救助工作車を派遣。さらに、札幌市消防局や広島町消防本部からも応援が駆けつけました。また、千歳市医師会にも医師派遣要請が行われ、千歳市立総合病院の医師と看護師、恵庭第一病院の医師も現場に駆けつけました。

最終的に30台の救急車・救助車両と100人の救急隊員が動員され、道警機動隊のバス3台も活用して、事故発生から約2時間で救助体制が整えられました。自力で脱出できた104名は救急車や警察車両で千歳、恵庭、札幌市内の10病院へ搬送され、車両に挟まれたり、下敷きになった4名はレスキュー隊によって救助されました。

特筆すべきは、午前9時56分に道警が札幌医科大学病院にヘリコプターでの重傷者収容を打診し、医師の現場派遣を提案したことです。これにより、日本では初めてドクターヘリが高速道路へ出動し、患者1名を札幌医大へ搬送する事例となりました。しかし、この救助活動にはいくつかの課題も指摘されました。医療機関への連絡に時間がかかったこと、現場でのトリアージが不十分だったこと、医療関係者の理解不足、ヘリコプターの搬送を十分に活用できなかったこと、医療側の連携体制の不備などが挙げられています。

事故の影響

この事故は、視界不良に加え、現場が札幌市と千歳空港、苫小牧、室蘭を結ぶ主要な交通路であったため、平均速度が高く、車間距離を十分に取らない運転が蔓延していたことも、被害を拡大させた要因の一つです。自動車専用道路という特性上、エスケープゾーンがほとんどなく、車外に脱出した人々は長時間危険な状況と寒さに晒され、一部にはPTSDを発症した人もいました。

事故発生直後から現場付近は通行止めとなり、消防署や警察の緊急車両、道路公団の作業車両など約110台が現場に駆けつけましたが、初動対応は事故の先頭と最後尾からのアプローチとなり、中間地点への到達が困難であったため、後に対向車線も通行止めとなりました。また、この事故においては、陸上自衛隊第七師団からも支援のため隊員が派遣されました。

呼称について

この事故は、現場管理者である東日本高速道路によって「関係車両186台による多重事故」と公式に呼ばれていますが、「186台玉突き事故」や「千歳高速道路多重玉突き事故」といった名称でも知られています。

この事故は、その規模の大きさから、今後の交通事故対策や救助体制のあり方を考える上で、重要な教訓となる出来事でした。

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