闘病記

闘病記（とうびょうき）について

闘病記とは、大病を経験した人が自身の体験や療養の過程、そしてそれによって得た人生観を綴った書物のジャンルを指します。闘病記は、単なる医療的報告に留まらず、個人の感情や考え、成長を深く掘り下げたものであり、多くの場合、病と向き合う中での壁を乗り越えたり、それによって新しい自分を発見する過程が描かれています。

社会学者の視点

門林道子という社会学者は、彼女の著書『生きる力の源に　がん闘病記の社会学』の中で、闘病記の定義を述べています。彼女は、「病気を患う人が自らの病気や、それに付随する自己を書くことが闘病記である」と考えています。また、病者の家族が書く病状記録も、家族の視点で病気を語るものであり、それも闘病記と見なすことができるとしています。このように、闘病記は患者だけでなく、その周囲の人々の体験や感情も含まれる、広範な文体の作品となっています。

門林によると、闘病記を書くことで「新たな自分」の発見ができるといいます。これは、究極の状況において自己を再構築し、肯定的な新しい人生を切り開く姿が見えてくるからです。また、遺族にとっても闘病記は、グリーフケアとしての意味を持っています。

闘病の語源と歴史

「闘病」という言葉が「病気と闘う」意味で広まったのは1926年頃です。小酒井不木の『闘病術』の出版や、岩瀬又吉による「死線を越えて肺病を征服する記」の広告が影響を与えたとされています。2000年代に入り、パソコンやワープロの普及に伴い、自費出版が増加し、自分史ブームの影響で闘病記の出版が盛んになったとされています。

特に多い乳がんに関する闘病記

闘病記の中でも特に乳がんに関するものが多く見られます。その理由としては、乳がんの罹患率の高さや、闘病期間が長いこと、自己診断での早期発見が可能な点などが挙げられます。また、乳房は女性にとって重要なシンボルであり、これを失う危機に直面することで、深い感情的な体験を描くことができるからです。

図書館での闘病記コーナー

2005年に東京都立中央図書館で「闘病記文庫」が設置されて以来、全国の多くの図書館に闘病記コーナーが設けられるようになりました。たとえば、鳥取県立図書館、山口県立図書館、水田記念図書館などでこれらの書籍が集められています。

著名な闘病記

数多くの著名な闘病記が執筆されています。代表的なものには、 西田英史による『ではまた明日』（1995年）、小倉恒子の『女医が乳がんになったとき』（1997年）、上野創の『がんと向き合って』（2002年）、大野更紗の『困ってるひと』（2011年）などがあります。特に、TBS報道局編の『余命1ヶ月の花嫁』（2007年）は映画化もされ、その人気を博しました。

闘病記は、時に厳しい現実を直視しながらも、希望の光を見つける手助けとなる貴重な作品です。このジャンルを通じて、みんなが病気に対する理解を深め、お互いに支え合うことができます。

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