阿南惟茂

阿南惟茂：波乱の外交人生と日中関係

阿南惟茂(あなみ これしげ)氏は、1941年生まれの日本の外交官です。2001年から2006年まで駐中国大使を務め、日中関係において重要な役割を果たしました。その経歴は華々しい一方で、在任中の数々の出来事や、それに対する批判は、彼の外交官人生を複雑なものとしています。本稿では、阿南氏の生涯と、特に中国大使在任中の活動を中心に、その功績と批判を詳細に検討します。

エリート外交官としてのキャリア

東京生まれの阿南氏は、東京大学法学部卒業後、1967年に外務省に入省しました。同期には、後に外務省の要職を歴任する多くの著名な外交官が名を連ねており、その競争の激しさを伺わせます。ハーバード大学での修士号取得後、中国語研修や、在パキスタン、オーストラリア大使館勤務を経て、中国に関わるポストを歴任していきます。中国大使館参事官、情報調査局企画課長、アジア局中国課長など、着実にキャリアを積み重ね、1997年にはアジア局長に就任。2000年には内閣外政審議室長を兼務し、2001年に駐中国大使に任命されました。

中国大使在任中の出来事と批判

阿南氏が中国大使に就任した時期は、日中関係が極めて悪化していた時期と重なります。その中で、いくつかの出来事が大きな論争を呼びました。

まず、2001年の瀋陽総領事館への北朝鮮人亡命者駆け込み事件では、阿南氏が事前に亡命者を追い返すよう指示していたことが明らかになり、強い批判を浴びました。事件発生前に行われた会議での発言が、亡命者送還の直接的な原因となったと報じられ、阿南氏は政府内部から更迭の検討もされたほどです。

また、2002年には、中国経済成長を示す報告書の内容を「中国へのODA削減につながる」として訂正させたという報道もありました。これは、中国へのODA政策に関する阿南氏のスタンスを示す出来事であり、日本政府の対中政策にも影響を与えた可能性があります。

さらに、2005年には、小泉純一郎首相に靖国神社参拝の中止を要請する書簡を送ったことも、保守派から強い批判を受けました。

これらの出来事を巡っては、阿南氏の外交姿勢について、中国側に偏っている、または日本政府の政策に反しているといった批判が、保守系メディアを中心に噴出しました。しかし一方で、5年間もの長期に渡って中国大使として活動し、日中関係の維持に尽力したという事実も無視できません。

退任後と家族

2006年に退官した阿南氏は、その後も国際交流基金日中交流センター所長などを務め、日中関係の改善に貢献しました。「中国と日本は未来永劫隣国同士なので、対立より友好を促進すべき」という彼の言葉は、彼の外交理念を示すものと言えるでしょう。

阿南氏の父は、終戦時に陸軍大臣を務めた阿南惟幾氏です。その家系もまた、日本近現代史において重要な位置を占めています。彼の兄弟姉妹には、元防衛大学校教授や元新日本製鐵副社長など、各界で活躍した人物がいます。妻は歴史学者で、息子は東北大学大学院教授と、一家は学識に富んだ一家であることがわかります。

まとめ

阿南惟茂氏は、複雑で波乱に満ちた外交人生を送りました。彼の功績は、日中関係の緊迫した時期に大使として務め上げたこと、そして退任後も日中友好に尽力したことなどにあります。しかし、在任中のいくつかの出来事や発言は、厳しい批判を招き、彼の外交官としての在り方を改めて問いかけることとなりました。彼の功罪は、日中関係史において今後長く議論されるべき課題と言えるでしょう。

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