阿島傘

阿島傘：歴史と伝統が織りなす喬木村の逸品

長野県下伊那郡喬木村の特産品として知られる阿島傘は、日本の伝統和傘の一つです。その歴史は古く、江戸時代中期にさかのぼります。

阿島傘の起源：偶然の出会いと技術の伝承

阿島傘の起源は、興味深い物語に彩られています。江戸時代中期、浪合関所の関守を務めていた知久氏が領地内にいた頃のこと。ある日、関所を訪れた僧侶が倒れ、知久氏によって看病されました。そのお礼として僧侶から伝えられたのが、和傘の製法でした。

当初は知久氏家臣の内職として始まった和傘作りは、やがて農家の副業として根付き、喬木村の特産物へと発展していきます。知久氏は、阿島傘の材料が全て領地内で調達できることに着目し、この地の産業として積極的に普及に努めたと伝えられています。

阿島傘の隆盛と衰退：時代とともに変化する運命

阿島傘の精巧な作りと品質は評判となり、その名声は遠くまで広がっていきました。大正時代には家内工業として発展し、最盛期には約100戸もの家庭で、年間30万本もの阿島傘が生産されていたといいます。しかし、昭和時代に入ると、産地間の競争激化や不況、そして戦後の洋傘の普及により、阿島傘の生産数は徐々に減少。現在では、わずかに1軒の生産者だけが伝統を守り続けており、年間の生産数は約3000本となっています。

阿島傘の継承：未来へつなぐ努力

阿島傘の伝統技術と歴史を後世に伝えるため、「阿島傘の会」が活動しています。約50名の会員によって、阿島傘の研究、伝承、保存活動が進められています。同地区にある阿島傘伝承館では、阿島傘の歴史や製作工程が展示されており、多くの人々に阿島傘の魅力を伝えています。伝承館では、5名以上の予約で手作り阿島傘体験教室も開催されています。

阿島傘の記録：日本一の和傘

阿島傘の技術の高さを示す出来事として、平成元年に実施された「日本一大きい和傘」製作プロジェクトがあります。高さ4m、直径6m、重さ240kgという巨大な阿島傘が完成し、当時日本一の大きさを誇る岐阜和傘を上回りました。この巨大な和傘は現在、阿島傘伝承館に半開きの状態で展示されています。（その後、大分県で製作された直径10mの和傘に記録は更新されています。）

喬木村のアルプスの見える丘公園には、阿島傘をモチーフにした大きな装飾傘が設置されており、地域住民や観光客に親しまれています。

阿島傘は、その歴史と伝統、そして職人たちの技術によって生み出される、喬木村の貴重な宝物です。わずかに残る生産者と「阿島傘の会」の努力によって、この伝統工芸品はこれからも受け継がれていくことでしょう。

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