阿蘭陀西鶴

阿蘭陀西鶴：井原西鶴と娘おあいの物語

朝井まかてによる小説『阿蘭陀西鶴』は、元禄文化が花開いた大阪を舞台に、井原西鶴とその娘・おあいの姿を描いた物語である。

あらすじ

物語は、盲目の娘・おあいの視点から語られる。父・西鶴は刀剣商を隠居後、俳諧に没頭する日々を送っている。しかし、その俳諧は売れず、万句俳諧の興行を行うなど、周囲からは奇異な目で見られていた。それでも西鶴は、「阿蘭陀西鶴、ここにあり」と豪語し、独自の道を突き進もうとする。

やがて西鶴は、師である西山宗因からも煙たがられる存在となり、句集への序文を断られてしまう。失意の中、西鶴はおあいを連れて淡路の旅籠へ。そこで彼は、市井の人々の喜怒哀楽を描いた長編物語を書き上げる。それが『好色一代男』である。

しかし、時の将軍は好色物を嫌い、出版を渋る版元ばかり。それでも西鶴は諦めず、知人の俳諧師を口説き落とし、ついに『好色一代男』を出版する。すると、この物語はたちまち大ヒット。西鶴は一躍、時の人となる。

おあいは、『好色一代男』の評判を聞き、父が洒落者であることを知る。また、自身が盲目でありながら、物語を通して主人公の華麗な姿を想像できることに気づく。西鶴はその後も創作活動を続けるが、やがてスランプに陥り、執筆を中断してしまう。しかし、近所の隠居仲間から聞いた貧乏話をもとに、『世間胸算用』を書き上げると、再び人々の心を掴む。

物語の終盤、おあいは病に倒れ、西鶴に看取られながら26歳という若さでこの世を去る。

作品の背景と解釈

作者の朝井まかては、本作を執筆するにあたり、西鶴の作品から元禄時代の風俗を学んだという。文庫版解説を担当した大矢博子は、西鶴を「庶民を主人公にした庶民のための物語を〈発明〉した」人物と位置づけ、本作を西鶴の精神を受け継ぐ朝井自身の「作家としての決意表明」であると解釈している。

『阿蘭陀西鶴』は、井原西鶴という一人の作家の生涯を通して、元禄時代の文化や社会を描き出した作品である。また、盲目の娘・おあいの視点から物語を語ることで、物語が持つ力や可能性を表現している。

主要登場人物

井原西鶴: 主人公。俳諧師、草紙作者。
おあい: 西鶴の娘。盲目。
近松門左衛門: 西鶴と同時代の劇作家。
松尾芭蕉: 西鶴と同時代の俳諧師。
西山宗因: 俳諧師。西鶴の師。
お玉: おあいの手伝い。
北条団水: 西鶴の弟子。後に、お玉と結婚。

受賞

第25回織田作之助賞

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